たちまちに弱気に ページ34
父は今日、客間で寝るだろう。客間は、廊下を挟んでおばあちゃんの部屋の向かいにある。
私は時間を置いてから階段をのぼって、自室へ避難する。部屋の電気をつける前に、携帯の画面が光った。
石垣さんから
「写真送るよ」
とLINEがきていた。
トーク画面を開けば、数々の写真が並んでいる。ロードにまたがって山道を見据える選手の写真。横長に取られた、青空を背負う山岳の写真。シャトルバスの中で撮ったのか、窓縁が入っている写真が多い。
自分で撮りたいと思うかたわら、父の声が胸の奥でささやいていた。「向き合ったらどうだ、そろそろ。その、お母義さんと」そのあとの母親の見苦しい態度が頭をよぎる。いてもたってもいられなくて、せっかく登った階段をまた降りた。おばあちゃんの部屋に向かっていた。
明日は病院でおばあちゃんとの面会がある。
おばちゃんの待つ京都市中央病院に、おばあちゃんの生きるために必要な最低限の荷物を運びに行く。荷物をまとめないといけない。仕事を済ませるのは早ければ早いほどいい。
おばあちゃんの部屋の入り口には、山のように積み上がった黄色のゴミ袋が、白熱灯に照らされて薄い黄緑色にてらてら輝いていた。
ふすまの隙間から、父の背中が見えた。後ろにいる私に気づかず、手だけを黙々と動かしていた。顔を見ると、父の目は視界に入るすべてのものを見ているようでもあり、また、何も見ていないようでもあった。
○○○○○○○
「8月2日をお知らせします」とテレビのアナウンサーが小さな音量で告げた。京都市南部の天気は曇りのち雨。私と父は朝食を静かに食べ、静かに掃除に取りかかった。母は家にいなかった。「仕事のあと合流」と荒い字の書置き手紙が、ダイニングテーブルに置きっぱなしだった。
昼から病院へ向かう予定で、それまでに荷物をまとめる。が、危惧していたしていたほどの遅れもなく、むしろ持っていく荷物が少なすぎて、昨日の夜、1時間くらいでまとまってしまった。
昼まで時間が空いたので、近所の美容院に行き、私は思い切って髪を耳の下まで切った。
「あ、暑かったから切ってみた」
目を丸くする父に私がたどたどしく言い訳する。本当の理由は、おばあちゃんと顔を合わせるのに踏ん切りをつけたかったからだ。
○○○○○○○
おばあちゃんが痩せていてびっくりした。目は窪み、口の周りの皺が深く縮んでいる。
会ってすぐ、おばあちゃんは
「だぁれ?」
幼い子みたいに小首を傾げ、キャッキャと笑った。
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時