なづけ親はあなただけ ページ33
中には便せんが1枚と写真が2枚。手紙の文はこうだった。
「ごめんなさい洋子」
見覚えのある達筆が、水か何かで滲んでいる。
ガチャッ
玄関で音がした。ドォンッと、扉が乱暴に閉まる。私はとっさに手に持っていた封筒をポケットにつっこんだ。
「お、おかえり」
部屋を出てすぐ、父がふすまに背を預けながら静かに呟いた。
母は視線だけを向けて、横を通り過ぎ、廊下をずんずん進んで、突き当たり奥にあるリビングに着くと、カバンをソファに放り投げ、ダイニングテーブルにビニル袋を置き、袋の正面の椅子を引いて、テレビをつけた。リビングの電気は父がつけた。
「向き合ったらどうだ、そろそろ。その、お母義さんと」小さい声の父。
母が鼻を鳴らす。私は黙って聞いていた。テレビの音が間を埋める。歓声が遠く響く。ワーワー、ザザ。雑音が混じる。
「洋子」
私とお母さんが同時に顔をあげた。
「君は、話を、するべきだ」
まばたきを何度も繰り返す父が、テレビの前に立っていた。
「君の、お母義さんと。ちゃんと」
「聞こえない」お母さんがテレビの音量を上げる。ビニル袋から缶ビール4本出して1本空け、グッと仰ぎ、振り下ろすと缶が安っぽく鳴った。
「君のお義母さんが、君と会いたがってるんだ」
「無理だって言ってるじゃない。あなたの会社と違ってすぐ休めないの。今この時に私がどれだけ記事を書かされてるか分かる?出版社に盆も正月もないの。身内に何があってもネタは待ってくれないの」
「君が仕事で……取材で忙しいのは知ってる、分かるんだが、酒でストレスを解消するのは良くない……と思う。俺は、君の……君が体調を」
「家事も育児も私に押し付けといて、今さらいいご身分よね。他人の親だからって言っても、もうちょっと遠慮できないの。家主がいない隙を狙って図々しい、頼んだこと以外しないで。どうせ私のためだなんて言って、本当は私がこっちの家に持ってきた荷物、物色するつもりでしょう」
「そういうつもりで来たわけじゃない」
父がようやく腹から声を出せていた。久しぶりに母と父が会話するのを見た。
「……とにかく、あなたの都合で勝手に進めないでください。明日早いし先に寝るから」
私と父をリビングに残し、母は階段を上がっていった。寝室から扉の乱暴に閉まるが聞こえた。父も部屋を出た。掃除の続きでもするんだろう、おそらくまた、おばあちゃんの部屋にいる。
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時