、という彼の横顔 ページ31
止めていた自転車を体に寄せ、また進み始める。私は何かに弾かれたように、意識がハッとして、足をもつれさせながら、その隣に並んだ。
「あ、ありがとう」
「別に」
「うん、でも、色々聞かせてくれて、やっぱり………ありがとうございます」
今泉くんが私をチラリと横目に見て、ため息をついた。
「……高橋A、お前、あの話はオレじゃなくて惚れてるやつに言えよ」
私の話を、御堂筋くんにも話せと言いたいんだろう。一瞬、読み取るのに時間がかかったけれど、私は大きく
「………うん!」
とうなずいた。
「言わないと後悔する」
今泉君は、私のことは見ていなかった。私と逆側に顔を向けながら言う。
「大切なんだろ、そいつのこと」
タオルが端からソーダ色に染まっていく。私は残りのアイスを口に入れた。口の中のアイスは、すぐに液状になって、甘ったるさだけを残してすぐに消えた。
「今は、おばあちゃんのことが大事だから……生きてる間は」
「そりゃそうだ」
今泉君はアイスの袋を右手で小さく丸めた。グシャっと音が隣から聞こえた。
「A」
「は、はい」いきなり下の名前で呼ばれて、私は言葉が詰まった。
「あっ、あの、タオルありがとう。これ、洗ってから返すわ」
「いい。かせ」
一方の今泉君は、なんでもない顔でこちらを見下ろす。私は「本当にありがとう」と手渡した。しかし、タオルを受け取る今泉くんは、まだ私に何か言い出しそうな顔でこちらを見ている。
「どうかしましたか?」
「お前……『なんでやねん』って言わねーんだな」
「えっ、うん」
もったいぶった言い方で、何事かと心配したけれど何でもない話題で、内心胸を撫で下ろす。対して今泉くんの表情は神妙だった。
「……関西人はみんな言うと思ってた」
「いや、なんでやねん」
私が一緒になって笑うと、今泉君は珍しく歯を見せた。
「お前、意外と度胸あるな。面倒くさいだけじゃなくて」
「………今泉君も結構めんどくさいで」
「急に遠慮がなくなるの、やめろよ」
すっかり毒気が削がれた顔で今泉君は頬を緩めていた。
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時