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しまった惚れてた ページ25

耳を寄せると、細くてくぐもった声で、青八木さんがポツリと言った。

「今泉は、まだ部室に帰ってない」

青八木さんの眼光が鋭く光る。

「……多分、今泉は手洗い場にいる」

そう言って、青八木さんは手に持ったアイスをじっと見つめた。青八木さんの目線の行き先が私に問いかける。

「渡してきます」

青八木さんの手に持っているアイスは、受け取ると私のより少し溶けかけているのが分かった。
私は二人分のアイスを手にし、足を手洗い場の方へ向けた。「高橋さん」セミに紛れて、高い声が私を呼ぶ。
振り返れば、青八木さんがこっちをまっすぐ見ていた。

「最後は自分が相手のためにどうしたいか、だ」

その言葉に私は深く頷き、先を急ぐ。
青八木さんが見せてくれた雑誌。持ち運ばれて少しよれた雑誌の、1箇所だけ折り目の入ったページ。そのページに大きく載せられたインタビュー記事が脳裏に流れていた。あの記事にはある選手の熱意が文字となり、ロードレースについて語られていた。

『怪我をしても復帰できたのは、アシストのおかげです。アシストは感情だけでは成り立ちません。好きとか嫌いとかでなく、割切った仕事です。アシストの役割はレーサーに限らず、周りのサポーターにも求められます。みんなが私を冷静に、そして最善を持って支え続けてくれました』

雑誌記事は読み返されたあとがたくさんついていた。中でも目立ったのは、鉛筆の濃く細い線。青八木さんの引いたその線の隣に、一行の文字があった。

『しかし、絆や信頼はなくてはならないんです。最後は自分が相手のためにどうしたいかですから』

雑誌を見せてくれているとき、青八木さんは自転車について、ロードレースについて少し教えてくれた。雑誌記事に書いていることにも補足を入れてくれた。
何が選手にとって辛いか、厳しいか、語った後に、青八木さんは静かに言った。

「自転車は……一人じゃできない、だから楽しいんだ」

小さく呟いた青八木さんの口元には、穏やかで控えめな笑みが浮かんでいた。

「私も……私もすごく、そう思います」

私は小野田くんに誰かと進むことの楽しさを、幹ちゃんには自転車を深く知ることの楽しさを、総北の皆さんには支え合いながら強くなることの楽しさを教えてもらった。

「自転車は……ロードレースは本当に楽しいスポーツだと思います」

青八木さんが満足そうにうなずき返す。私の目の奥はジンと熱くなっていた。

てをだすなお手つきだ→←とけていくとろけていく



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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時

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