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たねは明かさず成せばならん ページ23

そのあとは、選手の着替えがあるので私は部室を出るため、最後に空のボトルを回収する。しかしよく見渡せば、部室内に今泉くんの姿はない。

「あの、今泉くんは、まだ走ってますか?」

鳴子くんにこっそり尋ねると、少し険しい顔になった彼が
「ああ。多分なぁ。でもアイツいま帰ってきても、疲れてあれ以上イケズ言うことないやろぉから、せやから心配せんでも……」と言いかけて、私は言葉を遮った、

「イ、イケズされたとは、おもてへん」

私は首を振る。

「な、鳴子くん。私、今泉くんの言わはったこと、今はちゃんとわかるから。せやから、あの、今泉くんが怖い、いうことやなくて……謝りたいねん」

思わず早口で伝えると、鳴子くんが目を丸くし
「マジか」と呟いた。

その言葉に浅く頷きつつ、私は青八木さんに見せていただいた雑誌記事の一文を思い返し、目を伏せた。

「あ、謝ったところで何かが変わるって思ったわけやないけど。せやけど、自転車乗って頑張ってるところ見て、やっぱり一言だけでも謝りたくて」

「なるほどなぁ」

鳴子くんが渋く唸りながら、腕を組む。その後ろから、小野田くんが「あの、あのさ」と顔を覗かせて私を見た。

「ぼっ、僕は、いいと思うな」

「小野田くんも聞いてたんか」

鳴子くんのツッコミに、小野田くんがメガネを何度も掛け直しながら汗を飛ばす。

「あ、えっと、ぬ、盗み聞きして、ごめん!本当に!でも、僕、やっぱり、その、言ってみれば、今泉くんも少し怖くなくなるんじゃないかって」

「うん」私は小野田くんの言葉を噛みしめる。

「でも、本当に……相手がどう思うかじゃなくて、自分がどうしたいか、だと思う。僕も最初友達がいなかった。でも友達は作ることができんだ、自転車で。自転車で変わることができた。だから……なんというかですね、向こうがどう思うかなんて、高橋さんがそれを伝えたら変わるかもしれないってことで…」

鳴子くんは深く「ウンウン」と頷くと私の肩に手を置いた。

「小野田くんの言う通り、相手の気持ちは変えられるかもしれへんで」

「……うん」

「スカシは頑固や。けど、アイツもみんなも自転車が好きで乗ってるんや。自分もやろ?せやったら同じ自転車好き、自転車への真剣な気持ちは伝わるはずや」

それでも不安そうな私を気遣ってか、鳴子くんはバシバシと背中を叩いた。

「そんなにビビらんでええ、自転車乗りに悪いやつはおらへん!」

聞き覚えがあった。胸の奥がドクッと鳴る。

とけていくとろけていく→←ねらい通りに



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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時

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