いくどとなく呪えど ページ21
私は昨日の自分を強く呪ったし、今すぐ帰って読みたいほど内容が気になった。そんな私を察してか、手嶋さんが
「誰かあの雑誌を部室に置きっ放しにしてなかったか?」
と青八木さんや幹ちゃんに視線を振る。すると、本当に水の音に負けそうなほど細い声で、
「……オレ、今日持って来てる」
と青八木さんが口を開いた。
「おお、ちょうど良いぜ。さっそく読んでこいよ」
「で、でも」
私はまだ手をつけていないボトルを見る。小さい山を作るボトル。手嶋さんは片眉を浮かせて言った。
「まだ選手は帰ってこないし、今日はゆっくり洗っても平気だって言ったろ?」
それに、と視線を校門の方にそらせ、手嶋さんは口元を緩める。
「今泉が帰って来る前に読んでた方がいいと思うぜ」
幹ちゃんも穏やかに「いいからいいから。読んできて、Aちゃん」と笑った。
「あ、ありがとうございます!」
私は二人の好意に何度も頭を下げてから、青八木さんの後に続いて、部室へと急ぐ。西に傾く日の光が差した。私の走る砂利道に落ちる濃い木々の影を、光が薄く消しかけていった。
◯◯◯◯◯◯
空が薄暗い赤に染まり、背の低い校舎が校門に向けて長く影を伸ばす頃、ぞろぞろと選手が自転車を引いて部室に戻ってきた。
「お疲れ様です!」
手嶋さんや青八木さん、幹ちゃんに習って同じく声をかけてドリンクを配る。選手の顔色は疲労が見えたけれど談笑する余裕は残っていた。
先輩方の後に続いて小野田くんや鳴子くんが戻って来た。
「お疲れ様です!」
「た、高橋さん!すごい、すっかり馴染んでるね!」
私は気恥ずかしくて下を向きながら「そ、そんなことない」と呟いた。
「そ、そうや……あ、あの、二人の走ってるところ見ました!二人とも速いし、一年生とは思えないペダルの回転……びっくりしました」
「カッカッカ!そうやろ、そうやろ!ワイの走りは目ぇ引いてしゃーないねん!……で?」
「うん……え?」
見合わせた鳴子くんの目は何かを待っている気がした。少しの間を作って、やっと私は言葉を続ける。
「あ、あと……そう、フォームが綺麗で」
「そうそう」
腕を組む鳴子くんは大きく二、三度顎を引いた。
「走ってる時の余裕の笑みも、すごいなぁっと思って」
「ウンウン、あとは?」
「えっと、うんっと……あとは、いい感じにメガネが光ってましたね」
「いやッそれ小野田くんやないかい!」
「ご、ごめんなさい!」
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時