だれの為か忘れた ページ3
名前を呼ぶだけで顔を赤くしている私に、運転手さんが「そろそろ出発致します」と声をかけた。振り向けば、すでに私の自転車は車に積み終わっているようだ。
私は鳴子君や小野田君に「インターハイ、頑張ってください!」とエールを送ってから車に乗り込む。
私は、少しだけ今泉君が怖いので、乗り込むときに気が重くなってしまった。
今泉君のことは、紹介された際なんとも思わなかった。強いて言うなら「イマイズミ」という名前に聞き覚えがあったぐらいで。しかし、会話の中であれだけの正論を言われた後となると、二人きりになるのは気まずかった。
案の定、車内には長い沈黙が続いた。今泉君はずっと正面を向いて押し黙っている。腕を組み、表情の読めない様子がなんとも威圧的に思え、話題を振る勇気がなして、持て余すようにスマホの画面を見た。
通知が10件以上、着信が3本も入っている。すべて父からだった。ちょうど寒咲さんたちとの話が盛り上がっていた頃のことで、気づかなかったのも無理はない。LINEを開いて「どうしたの?」と父に送ると、既読はすぐについた。
次の瞬間、電話が掛かってきた。
「ご、ごめん。ちょっと電話します」と今泉君に断りを入れ、携帯を耳に当てる。
「もしもし」
「今どこにいる?」父の声は切羽詰まっていた。
「え、えっと、多分……千葉?」
「なんでそんなところに……!?」
「あ、あの、友達と会うてて。それで今、送ってもらってるところやねん」
「そうか」父が電話越しに一息つく。しかし、続いた父の声は変わらず落ち着かない。
「とにかく、できるだけ早く帰って来てくれ。話がある」
「話?」携帯を握る手に汗が滲んでいた。
「お前のおばあちゃんの話だ」
息を飲んで、思わず語調が強くなる。
「おばあちゃん、何かあったん!?」
おばあちゃんの、死んだように眠る寝顔が頭の深いところから蘇ってきた。唐突に、車窓越し見えた夜景や街頭がおばあちゃんと重なる。京都の二人きりの部屋で静かに子供番組を見ているおばちゃんの姿、体を小さく丸めて晩飯の小松菜をしがむおばあちゃん、寝たきりになっても「洋子、洋子」と私の母を呼ぶおばあちゃん。
父がやけにゆっくり息を吐いた。ほとんど肯定するような間を作り、父は言った。
「……詳しくは会ってから話す。とにかく早く帰って来なさい」
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時