いたいたしくて貴女らしい ページ19
「はは、なるほどな」
破顔する手嶋さんを思わず見返すと、眉尻を下げて手嶋さんは
「どおりで、深刻そうに聞いてきたってわけだ」
「あ……」
さっきの質問の真意を見透かされ、顔に熱が溜まっていく。一方の手嶋さんは「着いたぜ、ここが手洗い場だ」とさっそくボトルの山を流し台に置いた。
「使った後のボトルやタオルはここで手洗いしてる。順番に洗っていってくれるか?」
私と幹ちゃんは「はい!」と声を揃えてスポンジを手に取った。蛇口から吹き出す水が冷たくて、頭も冷えてくるようだった。傍で手嶋さんがボトルを手に取りながら
「さっきの今泉の話さ」
と横目に私を見る。
「は、はい」
「突き放すのは、あいつなりの優しさなんじゃねぇかって思うぜ」
「優しさ……」
「あいつはただの選手じゃない、多分、今後のチームをエースとして引っ張っていく、それぐらい実力のある男だ。だから、エースっていう、そういうヤツは、チームの勝利のために、時に冷酷な判断を迫られ、躊躇わずそれができなきゃダメだ。それは道の上にも限らない」
手嶋さんの持つボトルが泡に覆われていく。私は思わず手を止めて、話に聞き入っていた。私の隣でタオルを洗う幹ちゃんも、蛇口を閉める。
「今泉は、本当に高橋さんが傷つく前に、距離を取らせようとしてるんじゃないか?」
手嶋さんが他のボトルを手に取る合間に、私の目を見やる。
「だからキツイ言い方でも、伝えたかったんじゃねぇのかな」
「……きっと、そうですね」
私は、手に持ったスポンジをぎゅっと握った。今泉くんの目つきをはっきりと思い出し、出し惜しむような声で言われた「『応援』や『心配』で見返りを求めるな」という言葉の重みを胸のうちで推し量る。
エースが背負うプレッシャーや責任感、どんなものか自ら自転車を乗ってみても、どこまで調べても、考えれば考えるほど、私には計り知れなかった。「ロードレーサーにとって勝つこと以外に価値はない」と今泉くんはいうけれど、きっと一番は自分に言い聞かせるつもりで言っているのかもしれないと、ふと思った。あの時の御堂筋くんの面影が脳裏をよぎる。言い聞かせなければならないほどのプレッシャー。『彼ら』の背負うものを一瞬、垣間見た気がした。
「手嶋さん、チームのこと……選手のことを本当によく見てるんですね」
手嶋さんが目を見張り、私を凝視したまま手を止める。
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時