きみだから許せた ページ2
私が帰ることになったのを区切りに、みんなも帰ることとなった。ただ、いくら今泉くんが『すぐに来る』とはいえ、しばらくはゆっくり話せると思っていた。
たった数分後、店の外に車のブレーキを踏む音がして振り返ると、物陰の隙間から入口に停まる黒い影の一部が見えた。「まさか」と思いつつ外に出てみると、そこにあったのはドラマでしか見ないような長い体の黒い外車。ドアから出てきた男性は、夜道の中でも仕立ての良さがわかるスーツを身にまとっていた。
「早く乗れ、すぐ出発する」
戸惑う私を横目に、今泉君は車道側のドアに回り込んだ。
「けっ、さすが金持ちはちゃうなぁ」
「いつ見てもすごいね」
鳴子君、小野田君の順に手でロードを押して店から出てきた。
「今泉君すごい……」
運転手さんにドアを開けてもらって乗車する今泉君を見て、しみじみと呟いた。
小野田君たちに続いて、寒咲さんとお兄さんも店先に出てくる。お兄さんは鳴子君や小野田君に話があるようで、二人を呼び止めた。
そんな様子を眺めていると、「高橋さん」と寒咲さんが私に声をかけた。
「レースがね、8月1日から3日間あるの」
薄々そうだろうとは思っていた。インハイに出るんだろうな、と。今泉君と鳴子君、小野田君が自転車に身を捧げてるのは話で伝わっていたから。でも、初耳だという風にわざと私は目を見開いた。
「そうだったんですね、じゃああと数日後にはもう……!」
「うん。たくさん練習してたくさん怪我をしたけど、あと数日後でその結果が出る……。高橋さんも来ない?レース、きっと見たら感動すると思う。箱根でやるんだけど……」
私は「すみません、行きたいんですが……」と首を振った。御堂筋君の誘いも断って東京に来た手前、この誘いを受け入れることは無理だ。どの顔でいけばいいかわからない。今更行くなんて言えない。
寒咲さんはそれ以上レースについて喋らずに、「今日来てくれてありがと。私、久々に女の子と自転車の話ができて楽しかった」と穏やかに笑った。
「またいつでも来てね、あの自転車のことも相談に乗るよ」
「あ、ありがとうございます寒咲さん!」
「幹、でいいよ」
にっこり笑った顔は夜の闇に負けないほど眩しい。
「み、幹ちゃん……」
「うん。あ、私もAちゃんって呼んでいい?」
「だ、大丈夫!ありがとう」
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niko(プロフ) - 続き楽しみです!! (2021年2月24日 18時) (レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました!!面白いです!!!応援しています! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました!応援しています!次の更新楽しみにしています頑張ってください! (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます!無理せず頑張ってください! (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています! (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杞憂 | 作成日時:2020年10月9日 22時