テゾーロという男

16（悲/優しい）〈私は私〉 ページ17

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テゾーロの寝室に連れられた。
部屋には簡易シャワーがあって、そこに乱暴に押し込められる。
私が1人で済ませている間にテゾーロも黄金風呂で体を清めてきていた。

『ぇ…』

私はテゾーロに抱えられベッドにゆっくりと寝かされる。
目と目が合いしばらくの沈黙。その目は先程の檻での怖いものではなかった。
優しい…すがるような瞳。
その先に見えているのは私ではなくあなたが昔愛した女性だって事くらいわかる。
だってこの格好、彼女が来ていた色と同じ白いミニドレス。
そして首輪と鎖…。
昔救えなかった女性を買ったつもりでいるの？

テゾーロの冷たい手が私の頬を包む。
やめて…私はあの人じゃない。

『違う……私は』

私はAなのに。
やめて欲しいのに…

そんなに悲しそうな顔、しないで

唇があと数センチで触れそうな距離。
「やめて」が言えなくて強く目を閉じた。
微かな吐息にも敏感に感じてしまう。

コツン。
不意に額に重たい頭がのしかかった。

テゾーロ「…わかってる！」

『……』

テゾーロ「馬鹿げてるだろ。死んだ人のことを重ねて」

彼の顔を見るとさっきとは違い、しっかりと私のことを見ていた。
それでも悲しい顔のまま

テゾーロ「笑えよ」

『……笑えません』

テゾーロ「笑え……」

この男が自虐するなんて思ってもみなかった。
ましてや、小娘の私なんかに弱味を見せるなんて。

テゾーロ「A、どうしたら君に微笑んでもらえる…？」

『えっ…あ、あの…』

急にいじけて私の胸に頭をうずめてしまった。
まるで大きくなりすぎた子供のよう。
今はまだかける言葉が見つからず、胸にある鶯色の頭を優しく撫でてみた。

テゾーロ「……」

反応が無い、もしかして怒ってる？
手をどかそうとしたらあの大きな温かい手に押さえつけられてしまった。
このままでいろ、ということらしい。結構重たいんだけどなぁ。

『テゾーロ様、私たちまだ髪がびしょ濡れですよ』

テゾーロ「俺は乾かさん」

『……』

私は乾かしたいのに、テゾーロのわがままが可愛くて

『ふふっ』

笑ってしまった。

ガバッ…と顔を上げ目と目が合う。
ちょっぴり嬉しそうな顔を一瞬見せて、再び顔をうずめてしまった。
そしてクスクスと肩を上下に震わせていた。
温かく湿った息に胸がくすぐったい。
もしかしたら、顔は見えないけど、テゾーロは今すごく素直に笑ってるんじゃないかと思う。
私にはそれが嬉しかった。
それでも今晩ずっと、どこか悲しげに感じた。

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