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『ボトル集めまーす』
そんな彼女の声が響くのはいつものことなのに、この日は心臓が跳ねた。
時間もないし、もう形振り構っていられなかった。
「…A」
『ボトルもらいますね』
「…ね、今日残れる?」
『…っ』
いつもの合図と同じようにそう声をかければ、彼女は泣きそうな顔をしていて。
そのことに触れようとすれば、先に口を開いたのは彼女の方だった。
『…すみません、今日は用事があるので』
「…そっか」
困ったように笑う彼女にそれ以上声はかけられなかった。
それでも気持ちを伝えられないかもと思い始めれば、逆にどうしても伝えたくなってしまうもので。
彼女が更衣室に向かうのは分かっていたから待ち伏せをすることにした。
けれど目に入ったのは、彼女が嬉しそうに笑ってアイツと話す光景で。
いつもの黒い、ドロドロとした感情でいっぱいになる。
「…A」
『あ、お疲れさまです』
「…用事って、アイツ?」
あぁ、きっと嫌だろうな。
好きでもない男に抱かれて、付き纏われて、こんなこと聞かれて。
それでも今日は感情を抑えることは出来なかった。
『そうですよ』
「…そっか」
『じゃあお疲れさまです。…さようなら、凪先輩』
そう言って綺麗に笑う彼女を見れば、頭が真っ白になる。
引き止めたかったのに、まったく言葉が出てこなかった。
「…凪?」
「…終わった」
「え?」
「好きって言おうと思ったけど、無理だった」
「え、どうして」
玲王は酷く驚いていて、何故か慌てている。
「これからアイツとデートなんだって」
「それ本人がそう言ってたのかよ」
「…まぁ、そんな感じ」
「お前、それでいいのかよ」
「いいわけないけど、もう無理」
「無理ってお前…」
「…恋愛ってこんなめんどくさいんだね、玲王」
こんな苦しいだけのモノ、どうしてみんなは好き好んでするんだろう。
出来ることならこんな気持ち、知りたくなかった。
「…こんなことになると思わなかったし、凪がそこまで落ち込むとも思ってなかったわ」
「俺だって人間だよ」
「みたいだな」
「…玲王、お腹すいたー」
「よし、今日は何でも食っていいぞ」
そう言っていつものように、玲王リムジンで部室に向かう。
初恋がこんなにスッキリしない結末になるなんて、思っても見なかった。
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chiito(プロフ) - animestarmyu042さん» こちらの都合で申し訳ないのですが、今は別の作品を練っているのでまた気持ちがこちらの作品に向いたら書けたらなと思っております。気長に待って頂けると嬉しいです、よろしくお願いいたします…! (3月13日 17時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
chiito(プロフ) - animestarmyu042さん» 作品を読んでくださり、またそんなふうに言っていただきありがとうございます!いずれこの話の短編というか小話を書けたらと思って続編リンクを貼っておりました。なかなかいいアイディアが思い浮ばずこのままになっており申し訳ありません。 (3月13日 17時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
animestarmyu042(プロフ) - 続きが気になります。 (3月11日 21時) (レス) @page50 id: f7f1d51caf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:chiito | 作成日時:2023年4月24日 21時