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「俺も、Aに抜けようって誘った時ドキドキしてた」
『そうなんですか?』
「酔ってるA可愛いし、けど断られたら悲しいし」
『…その、いちいち可愛いって言うのやめてください』
「何で?」
『照れます…』
「ふーん、まぁ可愛いからやめないけど」
『本当そういうとこ』


そうやってこれまでのことを一つ一つ、誤解を解きながら私への気持ちを伝えてくれる。
こんな幸せな時間が訪れるなんて、出来ることなら高校生の頃の自分に教えてあげたい。


「…ね、俺がどれだけAのこと好きか伝わった?」
『ふふ、はい。十分伝わりました』
「ん、よかった。じゃあここからが本題ね」
『え?』


改まってそんな風に言われるから、思わずドキッとする。


「俺は今までもずっと、Aのことが好きだったワケ」
『…はい』
「で、普段はイングランドでサッカーしてるんだけど、今はシーズンオフで日本にいる」
『存じ上げてます』
「だからシーズンが始まる前には、あっちに戻ることになる」
『…そうですね』


何だろう、だからやっぱりさよならとか言われてしまうんだろうか。
だんだん怖くなって手をギュッと握りしめれば、彼の大きな手が私のそれに重なる。


「けど、俺はAのこと諦められない」
『…はい』
「だから、これを受け取って欲しくて」
『…え』


そう言って差し出されたのは、黒い小さな箱。
それを先輩が開けた瞬間に見えた大粒のダイヤモンドに、驚きと喜びと不安が入り混じって涙が溢れた。


「結婚を前提に、俺と付き合って欲しい」
『…え、っと、あの』
「結婚のタイミングは俺はいつでもいいからAに合わせる。…あんま長くは待てないかもだけど」
『…けど、先輩』
「ん、何?」
『そんな、結婚前提って』
「…え、もしかして断られる感じ?」
『だって』
「…もしAの中に不安があるなら、今ぜんぶ聞かせて」


私がポロポロと流す涙を指先で掬いながら、先輩は優しくそう言った。


『先輩のことは、好きです。大好きなんです』
「うん、俺も」
『けど、私たち、まだ付き合ったこともなくて』
「そうだね、だから結婚を前提に付き合って欲しいんだけど」
『…でも、これまで一緒に居た時間だって少ないし』
「んー…それはあんまり関係ないかな。これからいっぱい一緒に過ごせばいいし」


なんて、さも当然かのように言ってのける先輩。
嬉しくて仕方ないのに簡単に頷けないのは、また失うことが怖いから。


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作者名:chiito | 作成日時:2023年4月14日 20時

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