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『…待ってください、何の話ですか？』
「へぇ、シラ切るんだ」
『だって』
「もうこの関係も辞める？さすがに人のモノに手出すのは俺も嫌なんだけど」
きっと何かを勘違いされている。
だから弁解したいのに、先輩は聞く耳を持ってくれない。
何故自分ばかりが責められているのか分からなくて、自分の気持ちがすべて否定されているようで悔しくて。
今まで我慢していたものが自分の中で崩れていく音がした。
『…クセに』
「何？聞こえない」
『あなたにだけは、そんなこと言われたくないです』
「は？」
『彼女がいるクセに私にも手を出した、凪先輩にだけは責められる筋合いないです』
「…え、何言ってるの？」
『気付いてないと思ってました？』
「待って、言ってる意味が分からない」
そう言って私の手首を掴む力は先程とは違って優しくて、それにまた泣きそうになる。
『そっちこそ、そうやって惚けるんですね』
「だって、本当に言ってる意味が分かんないし」
『大丈夫ですよ、邪魔する気もないんで』
「…A？」
『先輩の言う通りですよね。もう辞めましょう、こんな関係』
「…Aは、それでいいの？」
全然よくないし、先にそう言ったのはそっちじゃない。
本当は好きだって伝えて別れるつもりだったのに。
こんな終わり方、したくなかったのに。
それでもずっと我慢して飲み込み続けて来た言葉たちが、今になって決壊したダムのように溢れ出す。
『どうせまた、同じことするんですよね』
「…何が？」
『この関係だって、イングランドに戻るまでの間だけのつもりだったんでしょう？』
「どういうこと？」
『昔と、何も変わらない。私の気持ちもなんてひとつも考えずに、知らないフリして置いていくんでしょ』
「A？」
『…凪先輩なんて、だいっきらい』
さようなら、そう言って私の手首をずっと掴んでいた彼の手を力いっぱいに振り払う。
きっと今度こそ、彼に会うことは本当になくなる。
本当に終わってしまえば呆気なくて、虚しくて、悲しくて、それでいて何も残らない。
部屋を後にする私を彼が追ってくることもないのだから、これが私の長い長い片想いの結末なのだ。
『…最悪。何であんな人、好きになったんだろ…』
自宅に戻って部屋で一人、人生で一番と言っていいほどの涙をその日は流し続けた。
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作者名：chiito | 作成日時：2023年4月14日 20時
