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『…おかげさまで。…あの、いま少しお時間大丈夫ですか?』
「ん、大丈夫」
『実は今度、サッカー部のOB会がありまして』
「何それ」
『卒業生で集まって、簡単な試合をしたり、そのあと飲み会したり…って感じです』
「…へぇ」
その反応にきっとめんどくさいと思っているんだろうな、なんて勝手に憶測する。
先輩の億劫な性格にこの時ばかりは感謝した。
『自由参加で、改まった会でもないので』
「ふーん」
『だからご都合つかなければ全然…』
「Aは行くの?」
『え?あ…はい、一応幹事なので』
「ん、じゃあ行く」
『え?』
「え、何?」
日時も伝えていないのに即答されたことに思わず戸惑う。
こういう期待させるような言い方もやめてよ、と心の中で毒吐いた。
『…えっと、6月末の予定なんですけど』
「うん」
『…スケジュールとか、確認しなくてもいいんですか?』
「ん、行く」
『あの、返事は今すぐじゃなくても大丈夫ですよ?』
「…そんなに嫌?」
『へ?』
「俺と会うの。もう顔も見たくない?」
顔は見えないけれど、その声に最後に会った日のことを思い出す。
あの悲しそうな、寂しそうな声と顔。
緊張と会いたくない気持ちとで口走ってしまった言葉に少し後悔した。
『…いえ、そんなことは』
「…なら俺も、行ってもいい?」
少し不安そうな声で、様子を伺うように尋ねて来る先輩。
そんな聞き方をして来るなんてやっぱり狡いなぁ、なんて自分の罪悪感を拭うために心の中で悪態をついた。
『…詳しい日時は、追って連絡しますね』
「ん、ありがと。…久しぶりに声聞けて、嬉しかった」
『…では、失礼します』
そう言って通話の終了ボタンを押すと同時にスマホの画面にぽたりと水滴が落ちる。
彼の言葉を一つ一つ思い出して、つい嬉しくなってしまい胸がきゅっと締め付けられる。
あれから何年もの月日が経ったと言うのに、私は何も成長出来ていなかったらしい。
そして期待させるような言い方ばかりする彼と、懲りもせずにまた期待しそうになる自分にうんざりした。
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作者名:chiito | 作成日時:2023年4月14日 20時