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それからまた月日が流れて、先輩たちの卒業式の日。
『…しんど』
「そりゃそうよ、39℃もあるんだから」
『先輩たちの、卒業式なのに…』
「無理よ、休みなさい」
私は高熱を出して、ベッドから動けずにいた。
サッカー部でお世話になった先輩たちが卒業してしまうのに。
それに、未だに忘れられないあの人だって、もう会えなくなってしまうのに。
せめて最後くらい、顔だけでも見たかった。
朦朧とする意識の中でそんなことばかり考える。
「…あんた、泣くほど卒業式行きたかったの?」
『だって、先輩たち、卒業しちゃうのに』
「またどこかで会えるでしょ」
『会えないよ』
だって先輩は、もうすぐ海外に行ってしまうんだから。
「…とりあえず、今は眠りなさい」
熱のせいで情緒も乱れていたのか、涙がポロポロとこぼれ落ちる。
母は何とも言えない表情で部屋を後にした。
そして泣き疲れた私は、いつの間にか眠っていたらしい。
スマホの着信音で目が覚めた。
『…どうして』
スマホが表示したのは、以前登録だけした人の名前。
いつの日か、そんな人もいたなと思い出に出来たらと願った人からの着信音だった。
『凪先輩…』
緊張と混乱で心臓が忙しなくて、どうしていいか分からなくなる。
どうして私の電話番号を知ってるの?
電話に出て、何を話せばいいの?
先輩は何を思って私に電話をかけて来たの?
何も分からないから怖くて、応答ボタンが押せない。
軽快なメロディを鳴らしていたスマホは、私が迷っているうちに静まってしまった。
『あ…』
自分の情けない声だけが静かな部屋に響く。
どうして電話に出なかったの。
どうしてあの日、先輩の話を聞かなかったの。
どうして自分の気持ちだけでも先輩に伝えなかったの。
どうして。
後悔ばかりが心を埋め尽くすけれど、掛け直す勇気なんて持ち合わせてはいなくて。
ただただ、涙を流すことしか出来ない自分を恨んだ。
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作者名:chiito | 作成日時:2023年4月14日 20時