Quasimodo Ⅱ 【short story】 (ページ44)

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妖 ⑤ ページ44

吸い込まれる様な黒い瞳…。
その流し目は、壮絶なまでに…色っぽい。

…そんな瞳でジッと見つめられると…
緊張して、手が震える…。

気に入られたのか何なのか、分からないけど…
私の側から離れないユーキさん。

今日は取引先の祝賀パーティに呼ばれ、そしてこの会場で社長さんからユーキさんを紹介され、知り合った…。

「あの…」

「はい…？」

ただジッと私を見つめる。

少し変わった人の様な気がするけれど
話し出すと、微笑みながら、しっかりと、くどい位に言葉を話す。

まだ出逢って間もないけれど、掴み所のない人だな…と思った。

｢あの～｣

今度は耳元で囁く様に呼ぶ。

「な、なんでしょぅ…？」

あまりにも距離が近く、掠れた声に混じって…吐息が耳にぶつかる…。

私は思わず息を飲み、然り気無くユーキさんから距離を取った。

「肌が白くて、美しいですね…」

開けた距離を詰め、そして私の背後に回るユーキさん…。

私の両肩にそっと手を置き、大きめに開いたドレスから、露になっている背中に……
そっと唇を押し当てて来た。

「！！」

私は驚いて、ピクリと体を震わせてしまったけれど……
不思議と…嫌な気はしなかった。

…振り返り、ユーキさんの顔を見るけれど…
本人も悪びれた様子は一切ない。

それどころか、私を見て…微笑む。

…何処か少し…気怠さを滲ませた黒い雰囲気を纏う…ユーキさん。

その声、その雰囲気、その力強い目…。

引き込まれたら…二度とは戻れない…
危険な香りさえする…。

…ゆっくりと片方の口角をあげ、笑うその口元が……
あまりにも綺麗で…私は目を反らした。

体温が上がり…体が熱を持つ。

「シャンパンに酔いましたか…？顔が赤いですよ」

「え？…あ、そう…かもしれません…。ちょっと失礼します…」

私は踵を返し、ユーキさんの前から離れた。

…パウダールームに逃げ込み、一息つく。

ユーキさんの唇が触れた背中が…熱い。

…早く帰ろう…。