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タイムカードを押したら、すぐ立花のもとに戻った。少しは落ち着いているが、まだ立花は泣いている。いや、涙を流しているという表現の方が合っているのだろうか。
「…無理にとは言わない。何があったか教えてくれないか?」
俺がそう言うと、思いっきり首を横に振る立花。立花には悪いが、少し幼く見える。
「そっか…。監督になら話せる?」
少しでも立花の負担を減らしたいと、監督を出してみる。まぁ、ただの同期の俺より実の姉の方が話しやすいだろうし。それでも立花は首を横に振る。それも俺の時以上に激しく。
「じゃあ、先輩には?」
この問いにも首を横に振る。不本意だったが、これは断ってもらって嬉しかったのは俺だけの秘密。
「…左京さんは?」
次は左京さん。前に寮に来た時も仲良さそうだったし、この人にならと思い聞いた。しかしやはり、首を横に振る。
「……俺には立花がなんでも1人で抱え込んで、パンクするように見えてるんだ。なぁ、立花。お前のその痛みを俺に分けてくれない?」
また柄にもないことなんて分かってる。セリフがくさいのも分かってる。でもこう言うしかなかった。これが立花相手じゃなきゃ、黒歴史確定。
静かに下を向く立花。俺はそんな立花の両頬を手で包み、顔を上げさせる。
「A。なんでも良い。今の状態になった理由じゃなくても良い。くだらない話でも良い。ちょっと話そうか。何飲みたい?なんでも奢るよ」
俺は今、いつも通り笑えてるだろうか?立花のことが心配過ぎて、上手く笑えてるかが分からない。それも相手は立花だ。営業スマイルだとすぐ気付くし、傷つけてしまう。俺は本当に笑えているだろうか。
「……ありがと」
「え、なんか言った?」
小さい声で立花は呟いた。聞き返したけど、本当は聞こえてた。でも今だけは聞こえないふりを許して。少しでも笑って貰えるように俺も頑張るから。
「コーヒーが飲みたい。あっっっまいの」
そう言うとさっきまでの暗い顔が嘘だったかのように、一気に笑顔になった立花。まだ無理してるのも分かってる。ただ帰ってきた時よりは自然な笑顔になってて、安心した。
「珍しいな。立花が甘いのなんて」
「疲れた脳には、糖分が1番でしょ?」
そう言ってニカッとわざと笑う立花に、少し見惚れてしまった。
「確かに。じゃ、俺は1番苦いのにしよ」
俺も負けじと笑い返した。
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てら(プロフ) - 自分にも似た様な経験があるので主人公の気持ち痛いほど良くわかります。主人公がまた職場に戻って欲しい気持ち半分、無理しないで欲しい気持ち半分です。この暖かい環境で主人公がまた心から笑える日を楽しみにしています。続き楽しみにしています、頑張ってください! (2019年10月14日 23時) (レス) id: dc9ce9c8b0 (このIDを非表示/違反報告)
ginmikoto(プロフ) - 上司に殺意が湧きました。至さんも千景さんもツートップで推しなので恋愛でどちらかを選ぶなんて、私はおそれおおくて出来ませんね笑。でも、更新すっごく楽しみにしてます!頑張ってください!そして至さんの教育係の人に惚れました。笑 (2019年4月4日 0時) (レス) id: 91596e022c (このIDを非表示/違反報告)
椏萌☆紅弥 - これは泣くな。(確信) この話や読んだら寝ようと思っても続きが気になって更新されてる分全部読んじゃいました笑 頑張ってください! (2018年10月22日 23時) (レス) id: d67f03efe8 (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - やばい…たるちもチカちょんもイケメソすぎるて。 (2018年7月1日 20時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
にゃんこ(プロフ) - 千景さんかっこいい…頑張ってください!! (2018年6月14日 21時) (レス) id: dc516c7501 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:李人 | 作成日時:2018年5月12日 10時