易しい知恵熱【Q.K】

ゆりかごのかたち / kwmr ページ46

( リクエスト )


　さあいざ魔法で空を飛ぶぞ！ というところで、がくんと頬杖から頭が落ちて目が覚めた。
……夢か。小さく息を吐くと、隣で微笑む河村さんが視界に入る。


「おはようございます、戸代さん」

「……ね、寝てないですよ？」

「言い訳はいいです」

　うわあ、ご立腹だ。
うん、今のは確実に私が悪い。
寝るなって怒られてから注意はしてたんだけど、どうしても記事の内容を考えていると、筆が止まった瞬間に眠気に飲まれてしまう。
それが河村さんの問読みの練習中だとほぼ確実に。


「もう何か、むしろ心配になってきたんだけど……普段寝れてないんですか？」

「そんなことないですよー。普通に寝てるつもりなんですけど……ただ、その、オフィスにいるとなんか安心しちゃって」


　癖になっちゃってるのかも。
直さないと、と呟けば、河村さんは首を捻った。
今の発言のどこに疑問点があったんだろう。


「そんなに安心できる場所でもないと思うんですけど」

「そうですか？ なんかホッとしますよ。家だと――あ、今は一人暮らしなんですけど、一人だってありありと突きつけられるというか。誰かの生活音があると安心しませんか？」

「つまり寂しいと」

「さっ……！ そんな、一人で寝れない子供みたいに言うのやめてくださいよ……」


　別に寂しいわけじゃない。
これでも一人暮らしは四年目だ。
不眠に苦しめられたことはない。
寂しくて寝れないなんて思ったことも一度もない。
心ばかりの反論をすれば、河村さんは納得がいかないとでも言うように不満げな顔を見せた。

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