易しい知恵熱【Q.K】

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「いいじゃないですか、一人だけ苗字呼びっていうのも。トクベツ感あって」

「何か屁理屈っぽいですけど……でも、うん。そうですね。河村さんだけの特権ってことで！」

「……そこを納得されるのも何か悔しいんですけど」

「じゃあどうすれば良いんですか！」


　河村さんの考えてることってわかんないです。
そんな風に呟けば、彼も頷いて同意ですなんて言うものだから、なんだか面白くて笑ってしまった。
河村さんにわからない河村さんのことなんて、私にわかるわけないじゃん。


「でも僕にとっては戸代さんの方が謎ですよ」

「え？ 何がですか？」

「今答えられても癪なので言いませんけど。もう少し考える時間が欲しいので」

「何ですかソレ」


　もう本当にわからない！
河村さんの方を伺うが、もうこの話題について話す気は無いようでスマホに向かってしまった。
私も今度こそ真剣に本に向き合うことにしよう。文字を目で追って、言葉を噛みしめ始めた時。


「……僕だけの特権なんですから、奪われないようにしてくださいね」

「え？」


　それだけ言い残して、河村さんは口をつぐんだ。
まあすぐに伊沢さんたちがやって来て、お互い自分の事どころじゃなくなってしまったんだけど。

　この後初対面の三守さんから戸代さんと呼ばれて、河村さんから特権はどうした、とお小言を貰ったのはまた別の話だ。

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