飛影捕獲大作戦！？ (ページ35)

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絶望ページ35

左右に人一人通れるか通れないかの細い岩肌の道、谷を挟んだその先に向き合う絶壁を繋ぐ一本の丸太が遠くに架かっている。無事に渡れれば飛影のいる陸地に辿り着けるのだ。

岩肌にぴったりと背中をつけながら慎重に身体を横へと移動させると、擦れて崩れた石の欠片が真っ暗で先の見えない谷底の奥へと落ちていった。まるで闇に引き込まれていくみたいだ。

時折目眩を起こしそうになるのを必死で堪えながら漸く橋に辿り着くと、今度は手摺のない丸太をゆっくりと慎重に進む。

震えるとバランスを崩しそうになるから余計な事は考えず、足元だけを確認しながら一歩一歩確実に。

すると突如身体が宙に浮いた。

「きゃああ！！」

「女ァ、いいトコに来たな。ほらアイツを見ろよ、お前の恋人なんだろ？」

鬼はAを背後から抱え上げたまま飛び上がると飛影の直ぐ近くに移動し、地面へ降り立った。

Aは無惨な恋人の姿に息を飲んだ――。

倒れて動かない飛影の身体からは血液が溢れだし一面を真っ赤に染めている。

光景を目の当たりにしたAは瞳を見開いたまま鬼の腕を擦り抜けて崩れ落ちる。

「！…貴様、Aに何をした。」

恋人の異変に気づいたもう一人の飛影が、少し離れた別の場所から慌てて駆け付けた。傷を負ってはいたが、瀕死という程ではない。自分の声が聞こえないのか、瞬き一つせず呆然と座り込む恋人に目を向ける。

「ちょいと幻覚を見せてやったのよ。旨い飯をもっと旨くする為には欠かせない大事なスパイスだからな。」

餌の匂いを嗅ぎ付け、彼女の周りにはただならぬ数の同族の妖怪が集まり出した。しかしその鬼は仲間を何の躊躇いもなく次々と短剣でて殺傷すると、刃に滴る仲間の血を舐め取って高笑いをした。

「飯は分け合おうと思っていたがさっき気が変わったんだ。小娘の夢の中に、とんだ獲物まで飛び込んでくるとは驚きだぜ！…お前、飛影とか言ったな。」

鬼は短剣の先をAの頬に軽く押し付けて、ゆっくりと動かす。僅かに流れ出た血液に舌舐めずりをしながら言葉を続ける。

「名前を聞いて思い出したんだ。…お前程の妖怪を喰えば、俺様もＳ級クラスの仲間入りってなもんだぜ。恋人の後を追えるんだから感謝しろよ？…ギヒヒヒ、まずは小娘の目ン玉くり抜いてやる。苦痛に泣き叫ぶ女の意識は最高に旨いんだ。」

生気が抜けたような瞳で座り込む少女の眼球に刃が突き刺さる寸前、鬼の手がピタリと動きを止めた。