真実 ページ32
「その石をよくごらんなさい。すべてを教えてくれる筈ですよ。」
私は服を片手で押さえ直して言われるがまま従った。石を眺める度に胸がギュッと鷲掴みにされるようだ…。
「私、自分に自信が無いんです。…寂しいなら素直にそう伝えられれば楽だとは思うけど、飛影に我儘なんて言えないから。」
飛影は私とは比べ物にならないぐらいの苦境を乗り越えてる。
飛影を取り巻く人々…幽助や桑原くん、蔵馬くん、そして躯という女の人もきっとそうなのだろう。彼等はいつだって死と隣り合わせで戦ったり…。
「その石は氷泪石ですね。」
問い掛ける穏やかな声音に、こくりと頷き膝を付いて掌に乗った石を彼女の前に差し出した。
「この石には名前があるんですね。さっきの鬼達もそう呼んでいました。」
「あなたは、氷泪石は何から出来た物だか知っていますか？」
「何から…えーと…」
知ってる。
確か前、桑原くんに雪菜ちゃんと出会った経緯を興味本意で訊ねた時だっけ？
極悪非道な人間を倒したとかそんな話をしてくれた。
やたら「思い出したくもねぇ」とか「金持ちはろくな奴等がいない」とか。
お金持ちが雪菜ちゃんを拐って金稼ぎの道具に…
――そこまで思い出してハッとする。
「氷女が…流す涙…？」
私の脳裏を掠めたのは、飛影が魔界へ行ってしまうあの日。
気が付くと飛影と雪菜ちゃんが二人っきりでしゃべってて、“あれ？なんだか珍しいな”なんて不思議に思って近づいたけど、余りに真剣そうな様子だったから躊躇してしまって、直ぐにその場を離れることにしたんだっけ。
でも、少しだけ聞こえたのは、“氷女は子を産む時一粒の涙を流す”とか、そんな話だったと思う。
私は遠くの方で他の人達と会話をしながら雪菜ちゃんが飛影に何かを渡すのを見てた。
だけどそれが何かはちゃんと見えなかったし、後になって雪菜ちゃんに訊くなんてことも全く考えなかった。
気にならないといえば嘘になってしまうけど…。
雪菜ちゃんは兄探しをしていた。もしもあの時、雪菜ちゃんが飛影に託したものが自分の氷泪石だとしたら――。
徐々にパズルのピースが填まりそうではあるが、同時に後悔の念に押し潰されそうになった。
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作者名：ゆめ | 作成日時：2021年10月8日 3時
