私の中には君しかいないのに ページ28
「そっ、それは誤解だよ…！！」
そう、抱き合っていたというのは語弊がある。
…まあそう見えても仕方なかったかもしれないけど…
「じゃあどういうこと？」
「えっと……」
勝利は疑いの眼差しで僕のことを見つめてくる。
もう、正直に言うしかない。
「ちょっとショックなことがあって、中島先生に相談してたんだけど……話してたら涙出てきちゃって」
「えっ…」
「先生が慰めてくれてた所を、勝利が見たんだと思う」
長いまつ毛の影に隠された眼差しからは何の意図も読み取ることが出来ない。
暫くの沈黙を永遠に感じた。
「……なんかさ、俺、聡には俺しかいないって思ってたんだよね」
「え…？」
「聡の世界には、俺しかいない…って」
思わず息を呑んで勝利の顔を見る。
苦しげに紡がれた言葉は、僕にとっては信じ難いものだった。
「聡は俺を慕ってくれて、いつも俺を見てくれてるのを感じてたから。聡の周りの誰よりも、結局俺が一番なんだろって……酷い自惚れだよな」
「…………」
それは、自惚れなんかじゃない。
本当に…僕には勝利しかいなかった。だから中3の冬、勝利に告白したんだ。
この気持ちは、今だって……
「聡の中で、俺より他の誰かの方が大きな存在になってるって思ったら………」
それに続く言葉を勝利は言うことなく、ふはっと乾いた声で笑った。
「俺聡に嫌われる様なことしかしてないのに、馬鹿だよな」
一瞬、あの体育祭の日の出来事がフラッシュバックして息が詰まる。
『ほんとごめん！つい…』
この言葉の意味も分からないまま。
勝利のこと、分からないことや知らないことが沢山あるって思い知った。
でも、それでも僕は……
「……勝利には」
「勝利には、何されたって…嫌いにならないよ」
「嫌いになれるわけない」
勝利の瞳が大きく見開かれる。
あの日の言葉の意味も、勝利がここまで僕のことで心を乱してくれる理由も、尋ねる勇気なんてない。
僕が自分勝手に泣いてわめいて、まだ少し幼かった僕の告白をなかったことにしたのかもしれない。
それでも、僕は勝利を諦められない…。
これが、今の僕が出せる精一杯の答えだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 141人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ピヨ(プロフ) - かずえ さん» わ〜ありがとうございます（≧∇≦）鈍感聡ちゃんに不器用な勝利くん…そろそろ転機が訪れる予定ですが、よかったら見届けてやって下さい♪ (2018年3月12日 23時) (
レス) id: 8cf126ec24 (このIDを非表示/違反報告)
かずえ - 初めまして！『聡ちゃん…この鈍感めー！！(ﾓﾀﾞﾓﾀﾞ)』となりながらいつも見ています(^^)甘酸っぱくて、もどかしくて、2人共可愛くて、とっても続きが気になります！次の更新も楽しみにしています。 (2018年2月21日 16時) (レス) id: 6d59a6d31a (このIDを非表示/違反報告)
ピヨ(プロフ) - ほのかさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます…！！のんびりな更新ですが楽しんでもらえたら幸いです(*^^*) (2018年1月5日 13時) (レス) id: 260e8b028e (このIDを非表示/違反報告)
ほのか - こんにちは！！いつも小説見させてもらってます！ほんとにこの小説がだいすきで、更新されたらすぐ見てます笑 これからも頑張ってください！fanより (2018年1月3日 13時) (レス) id: 5c187ffec1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ピヨ | 作成日時：2017年9月5日 0時
