肆拾参 ページ43
男が反対側の入り口に立ったのを確認し、私は影へと一歩足を踏み入れる。
『……少年』
「なに?Aさん」
影は踏まないように、と言ってある。少年は路地裏の影に入る手前で止まっていた。その小さな手に藤の花を持ち私を見上げる。
ふと思い出す。…光の中で呆然としていた姿。ぴくりとも動いていなかった体。…動けなかった体。鬼の血にまみれた私を見たときの表情。
少年はまだ鬼を見たわけじゃない。
知らないからこそ怖いだろう。人の想像力…恐怖は凄まじいものだから。
それなのに少年はこうして、ここに立っている。
『いや…無理はするな』
思わずそう言っていた。…どうにも今の少年は意地になっている様にしか思えなかった。影にもそういう部分が無くはない。ただ、こちらから頼んだ以上今さら引き返せとは言えない。それに少年が居てくれなければ鬼を閉じ込めることは出来ない。
少年は驚いた顔をしていた。それから困ったような、何ともいえない顔をする。
「…無理なんてしてないよ?」
『分かってます。だから安心してほしい』
話の辻褄があってないことは承知している。少年の首が更にかしげられた。
「…!」
私は少年の額に手のひらを当てる。当てながら自分の額にも記憶の熱を感じた。
『君に傷はつかない。何故なら私が護るから。だから安心してここにいて』
それだけ言って私は路地を進む。
五歩進んで止まる。
『隠れていたら私を食べることなんて出来ない』
暗闇に向かって声を発する。
『それとも、怖いか?』
挑発するように言えば案の定乗ってきた。スッと形が現れる。禍々しい。けれど細身の体。真っ白な肌。着物を着、帯刀していた。
「ックック。わざわざ自分からオレの中に足を踏み入れるなんて愚かだなぁ…!」
この鬼は闇に潜むことが出来る。闇の中は自分の世界だ、とでも言いたいのだろう。
『あと二体』
「あぁ?」
『まだ居るだろう。それで隠れているつもりなのか?』
「………」
指摘すれば鬼の顔が歪む。歪んでから得意気な顔に戻る。
1021人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆら - とても続きが気になる物語だったので、時間があるときに更新よろしくお願いします。頑張ってください! (2020年6月21日 12時) (レス) id: a43add877a (このIDを非表示/違反報告)
ユナナ(プロフ) - こんにちは!"浮世離れの今日"を見させていただきました!好きな漫画がコラボで出てきている…もう喜びを超えた嬉しさです笑 後の展開がとても気になります!技の名前も高クオリティで普通に鬼滅の刃にで出来そうです笑 また続きをお待ちしています笑 (2020年1月8日 11時) (レス) id: 0bea8b4a9d (このIDを非表示/違反報告)
JRPG(プロフ) - 作者です。更新しました。楽しみにしてくださっていた方遅くなりすみません…。沢山のコメントありがとうございます。全部読んでます。引き続きお楽しみ頂けたら幸いです。 (2019年10月31日 9時) (レス) id: 0e0a111648 (このIDを非表示/違反報告)
綺咲裕翔 - めちゃくちゃ面白いです!!続きが気になるー!楽しみにしてます!頑張ってください! (2019年10月27日 10時) (レス) id: 93b6603b06 (このIDを非表示/違反報告)
南無阿弥陀仏(プロフ) - 続き待ってます (2019年10月24日 14時) (レス) id: 1cf60bec73 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Justice RPG | 作成日時:2018年9月15日 21時