【d!】スポットライトの外側【短編集】 (ページ9)

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天泣(shp) ページ9

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その日は朝から晴れていた。
消臭剤を吹き散らした黒のスーツに腕を通して向かった先、彼女は美しく笑っていた。

「A…？」
「あれ、」

あたしのこと見えるの、なんて瞬いた瞳と光を透かす指先を伸ばされて、思わず頬を抓る。そんな俺を見て笑う顔は一週間前と変わっていないのに、痛みを残した頬と漂う線香の香りが現実だった。

「お母さんとかお姉ちゃんは結構泣いてたな」

お焼香なんて上げなくても変わらないよと連れてこられた喫煙所、未だ受け入れ難い現実の隣で煙草に火をつける。風に流される副流煙も吸う人がいなければ害なんてないし。
つらつらとなんでもないように言葉を並べ立てるそいつを横目で見れば、不透明な体はぷかぷかと浮いていた。幽霊、でいいんだろうか。俺の視線に気づいたのか、こちらを見た彼女は、眉を下げた。そのまま、言葉を続ける。なんでもないように。

「最近買ったあのワンピースも着てないし、あのカフェだってドリンク一杯無料券使ってないんだよ？」

茶化すような口調と裏腹に、震わせた声が痛々しい。ぼろぼろと崩れるように溢れた涙に手を伸ばすのに、当然のように濡れることは無い。差した光に当てられて反射する様子は正しく水のようなのに、きらきらと光るばかりで空気に解けるだけだ。ふわふわと浮いた体が少しずつ天に上って行く。手が届いたとしても拭えないその涙に、俺だってお前に告白するつもりだったのに、とはとても言えなかった。

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