【d!】スポットライトの外側【短編集】 (ページ5)

今日:10 hit、昨日:7 hit、合計:12,165 hit

終わらないでと願う夢(rb) ページ5

·

終わりはいつも呆気ない。例えば、毎年心を躍らせていたサンタクロースの正体を知った時も、この身長が軍人として弱点となることを理解するしかなかった時も。崩れないようにそっと積み上げて来た純粋な感情が、想いが、時間が、無に帰すのはいつも一瞬だ。わくわくするような夢の途中で目を覚ました時、続きを願ってもう一度眠りにつくことを馬鹿馬鹿しいと思い始めたのはいつの事だったか。

「あいつがスパイやってん」

返り血で汚れてしまった銃のグリップを確認しながら報告する。あー、中にまで入ってしもうとるわ、いったんバラさな。返事はない。
近頃の隣国の様子と内部の情報から、軍内に密偵がいると会議で報告したのは俺だった。秘密裏に個人の特定を進めるよう頼んだのはつい一週間程前のことになる。その時と同じように会議室に集められた面々は、何故か誰もが傷ついたような顔をしていた。唐突にずんずんと歩を詰めて来たゾムに、胸ぐらを捕まれる。

「お前！！あいつは、」

半ば怒鳴るような声は不自然に止まった。
あいつは、あいつはなんだ。何を続けようとしたかが分からない。あいつは俺の恋人だった。そして他国のスパイだった。それ以外に何かあるのだろうか。ぷらんと宙に浮いた足が揺れて、自分の身長に頭が痛くなる。気分が悪い。やけに震える手を軽く握った。

「すまん、情報吐かせる前に殺してもうた」

次からは気を付けるわ。そう言う前にぱっと重力が戻ってくる。ポケットに突っ込まれた手、興味を削がれたように背けられる顔。確かにすぐ撃ってしまったのは俺らしくなかったかもしれないが、機密情報の詰まったメインサーバーをこそこそ弄ってる奴がいたら手が出るものだろう。とりあえず銃の腕は落ちていないようで安心した。死体は適当に処理するな、と背にした部屋からは相変わらず誰の声もしなかった。気味が悪い。葬式でもしてるんやろか、とまで考えてついさっき死んだ女の顔を思い出した。色仕掛けで取り入ろうとしたんやろうけど、可哀想やなあ。残念ながらこの通り、俺は好きになった奴さえ殺してしまうような人間だったらしい。冷たく重い体を引き摺って焼却場へと向かう。血浸しのサーバールームは信頼のおける部下に任せてある。静かに燃え盛る炎の中、陽炎のように目の端に映る見慣れた軍服の色と煙が目に沁みた。指の先がまだ震えている。いつの間にか空は暗くなっていた。今日は面倒なことの多い一日だった。早く眠れるといいのだけれど。

·