不器用なふたり (ページ20)

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電車を降りて店まで走る。

賑やかな街を通り抜けて店の前まで来て。

もう11時40分。

中から大勢の人が出てきて。

たくさんの女性と、たまに男性も。

終わってしまったかもしれないけど、とりあえず中に入る。

中にはまだ香水の匂いが残ってて。

淳太と、あと数人の女性。

ホストの人たちにも囲まれて。

話しかけたいのに、怖くて話しかけられない。

あの輪の中に自分が入っていいのか分からなくて。

ただ遠くから見ていることしかできない。

「淳太くんおめでとぉ～！」

黄「ありがと」

女性の頭撫でてるのを見て、慌てて目をそらす。

「ねぇ淳太くん好き！」

黄「ん。俺も好きやで？」

知ってる。

ホストは、軽いノリでこういうこと言うんやって。

でも、なぜか胸が苦しくて。

会えて嬉しいはずやのに、会えるだけでいいって思ってたのに。

結局なにを望んでたんやろ。

淳太に気づかれることもなく、そのまま店を出る。

いつもなら好きなこの明るい世界も、今日はどこか眩しすぎて。

でももう店に戻る勇気はない。

重い足取りで駅まで歩く。

あのときの淳太の顔、忘れたくても忘れられなくて。

所詮ホストなんやから。

信じたって裏切られるだけ。

客をひきつけるためにやってること。

それやのに、淳太だけは魅力的に見えてしまったんや。

下を向けば涙がこぼれ落ちて。

なんの涙なのか、俺には分からない。

分かりたくもない。

ホストに本気で恋してるとか、そんなこと気づきたくない。