双子の矛盾恋愛式（green）１０

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部活を抜け出して向かったのはトイレなんかじゃなく、広い校舎内を、ただ直感で進んだ


廊下の白い床には、西日が伸びとった


ふと、足を止めた
１年１組の教室の中にその姿を見つけて
俺は、そっと、とびらに手をかけた





安「・・・・・」


「あ・・・」





Aは振り向くなり、なんとも言えない表情を浮かべた





「・・・安田くん」





そう言って笑って
まぶしそうに目を伏せる


遠くのほうで運動部の声がしとった


教室には他にだれもおらんで
絵に描いたようなふたりきりの空間


Aの無垢な髪の毛が、日の光に透けて





ふいに。





くしゃり、と。表情をくずしたAが
何もかも振り切るように






安「・・・っ」






ふわっと走り寄ってきて
俺はその身体を、しっかりと抱きとめた



泣いているような顔やった



肩を震わせて、息も震わせて。



ふたりの鼓動が重なって
吐息が。同じリズムを刻んで



ああ、ほら____________



ぴくりと揺れた睫毛は濡れて



それはまるで運命を引き寄せ合うように
互いの頭に手を回し、
おでこをそっと擦り合わせる









「・・・やすだくん・・・」









Aの声は震えとった


くちびるも、ひとみも、手も指先も









安「A」



「会いたかった・・・









・・・にぃに・・・」









_____________その呼び名は、


遠くまだぬるい人生のはじまりを
俺に思い起こさせた。


ずっと昔に失くしたと思っていたパズルのピースが、ぱちんと、当てはまったような。




そっか



そうやん



そうやったやん




なんで、俺、


こんな大事なこと忘れとったんやろ___________









安「・・・A」




自然とこぼれていくその名を
幼い頃に俺は何度も口にしていた


ちいさくて・・・未熟で、


まだことばも満足に扱えなかったあの頃


そのぬくもりはいつもそばにあって





―にぃに―





俺の、一部やった




なくてはならないものやった




俺は、ずっと、この居場所を探し求めとった




曖昧なほどの永い時をかけて、やっと、見つけた









安「A」


「にぃに・・・」


安「A・・・・・おれの、」









おれの__________________カタワレ

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