109.最高にカッコよくてかっこ悪いヒーロー ページ6
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ーーーー…こんな翔ちゃん、見たことがない。
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夜風が吹く。桜が舞う。
ちらりと後ろを向くとベンチに座って桜に包まれて話をしてる菜穂さんとカズ。
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私は生ぬるい風を頬に当てて
隣で複雑な顔をしてる翔ちゃんの頭をポンポン、と撫でた。
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翔「…A？」
「私にとって翔ちゃんがいつもスーパーヒーローだった」
翔「…え？(笑)」
「いつも守ってくれる翔ちゃんが私のヒーローだったんだ」
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ぷっくり春の夜空に浮かび上がるのは
さっきまで雨を降らせていた空とは思えないほどの大きな月。
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「でも、今だってヒーローだよ」
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掠れた声。翔ちゃんが私のことをじぃっ…と見上がる。
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「だってあんなかっこよくてかっこ悪い翔ちゃん、初めて見たもん」
翔「…え？」
「泣きながら頭下げるなんて前代未聞。昔の翔ちゃんなら絶対しなかった」
翔「…」
「…翔ちゃんが守るのは菜穂さんなんだよね。私も出来る限り翔ちゃんのことを守るよ」
翔「…A…」
「いつも守れてばっかりだったからね(笑)」
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ーーーー…『うわああああん！翔ちゃん！ゲームとられたーーー！』
翔『なんだと！誰にとられた！』
『クラスのトモヒロくんーーーー！うわあああん』
翔『ほらもう泣き止めって。な？A』
『うわあああん』
翔『翔お兄ちゃんが取り返してあげるから。ね？』
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人はいつ大人になるのか。
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未成年というレッテルを剥がしたら？
それとも初めて恋をした日？
ーーーー…いや、きっと違う。
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翔「……A？」
「うん？」
翔「…この感情に名前をつけるなら、人はなんて名前をつけるんだろうね」
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大人ってのは諦めとか妥協を知ってしまった、その日からだと思う。
夢は叶わない。意地を張って素直なことを言えない。周りと合わせてしまう。大概好きなことを仕事には出来ない。
でも。
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和也「A」
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和也「もう、大丈夫」
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ふわっと舞った桜吹雪。
その吹雪の中にいた菜穂さんは恐ろしく美しく。
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うん。
大人も悪くはない。
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