106.Escape ページ3
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菜穂さんが帰ってこないんだって…。
…。
私、心配だから翔ちゃんと探しに行く。
…。
カズはーーーーー…。
…行く。
え？
俺も行く。
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俺も、あんたと行く。
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「ーーーー…っ翔ちゃん！」
翔「A…、…と二宮さん」
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駅前で待ち合わせをしていた私たちは、お互いにお互いの存在を認識すれば
翔ちゃんは今までに見たことがない鬼のような形相をしていて
カズを見た瞬間、ホッとしたような安堵の吐息を零した。
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夜。
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春の夜は少し気持ちが悪いモヤっとしたような夜。
カズは翔ちゃんに名前を呼ばれるや否やペコ、と頭を下げてからすぐに私の後ろに下がる。
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「菜穂さんは？」
翔「…荷造り終えて、最終確認しようと思って」
「最終確認？」
翔「本当に、俺といていいのか」
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プップー…というクラクション音が右道路から破裂する。
生ぬるい風が喉にまとわりつく。
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「…それで？」
翔「そしたら急に菜穂、泣き出して。慌てて謝ろうと思ったら出て行って」
「…」
翔「追いかけたんだけどもうどこにもいなくて。さすがに夜になったら帰ってくるだろうと思ったら帰ってこなくて」
「…」
翔「さすがに俺、心配になって心当たりは全部探した。でもどこにもいなくて、知り合いとかにも連絡してみたんだけど誰も居場所知らなくて」
「……」
翔「ふと思い出したんだ。そう言えば菜穂、出て行くとき二宮さんに借りた本を持ってたって」
「…え」
翔「だから二宮さんなら菜穂の居場所分かるかと思って…」
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翔ちゃんの大きな、涙袋がぷっくりしてる瞳にうっすらと薄い涙の膜が覆う。
その膜はやがて大きくなっていき
春の夜風がぶわっと吹いて、さっきまでの大雨が嘘かのように。代わりに翔ちゃんの目から雨が降る。
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翔「二宮さん」
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ザッと翔ちゃんが一歩前に出る。
それに倣って私も後ろを振り向くとそこには
カズが腕組みをしながら、薄い唇をキュッと締めていて
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翔「お願いします。力を貸してください」
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必死に頭を下げる翔ちゃんを見て
また唇を噛み締めた。
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