104.コール ページ1
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“ーーーーー…行くなよ”
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ザァァァァ…と窓枠を打ち付けている雨は鳴り止む気配をどうも見せない。
左手で掴まれた私の右手首が「もう熱いよ」って泣きながら「でももっと」って名残惜しそうにしてる。
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カチッ。という時計の針の音。
ザーーー…という雨の音。
ド…クン…っていうのは
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私とカズ
どっちの胸の音？
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「…か……ず……」
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ようやく出した声は自分でも驚くほどか細くて、今にも消えそうな。
泣きそうなほど痛々しい声に
この繋がれた手から全て伝わってしまえばいいと本気で、本気で思った。
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血液みたいに流れて行って、やがてはカズの体の中へ。
そうしたら、伝わってくれるのに。
カズに素直な気持ちを言えるのに。
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和也「…あーーーー…」
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真っ暗な空間。目がやっと慣れてきたからか、多少は見えてきたものの
カズの顔は相変わらずどんな表情をしているのかわからない。
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でもカズの口が何かを言いかけたのは分かる。分かる…けど
また良いタイミングで。
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電話は着信を告げた。
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「…あ」
和也「…」
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プルルルル…と鳴り響く着信音。
ザーーー…と痛いほど木霊する雨音。
ギュ…と力が込められる握られた右手首。
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離れようとすればするほどその力は強くなって行く。
捻っても解けない、その手は。
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ーーーー…なんだか私が特別なのではないかと錯覚してしまう。
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和也「…出れば？」
「…出れない」
和也「なんで」
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“カズが私の手を握ってるから”
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…なんて口が裂けても言えるわけないじゃない。
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分かってるからこの人は聞いてくるんだ。
なんてずるい人。
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スマホはちょうど手を伸ばして届くか届かまいかのギリギリの距離にあるテーブルの上。
カズが手を離してくれなければ…、自由を許してくれなければ
私はディスプレイに表示される『着信 櫻井翔』の電話に出ることはできない。
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「かず」
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その時だった。
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