103.雨の夜、春のはじまり ページ24
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やさしい瞳で見つめられると
息が出来なくなって私は本気で死んでしまうかもしれない。
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「ーーーー…え？」
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逃げ場所のように開いたメールボックス。
差出人は
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和也「…俺」
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和也「俺、あんたがーーーー…」
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バッッ！と音がしたかと思ったら
その瞬間、一気に店が暗くなった。
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「なっ、なに…」
和也「俺ちょっとブレーカー見てくる」
「う、うん」
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パタパタとカズが去って行く足音。
カズは今何を言おうとした？
そして
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ディスプレイに映る文字。
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差出人は翔ちゃん。
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和也「ブレーカーに異常はなかった。…多分、大雨と雷のせいで停電っぽい」
「…うそ」
和也「しばらく真っ暗なまんまだわ」
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何も見えない暗闇。
カズがどこにいるのか分からない。
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ザーーーーーーーーー…と容赦なく降る雨に。
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「…カズ、私行かなきゃ」
和也「あ？」
「翔ちゃんからメールが来たの」
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暗闇の中、光るディスプレイ。
どこにいるか分からないカズに、確かそっちにいたような。そんな感覚でスマホをそちらに向ける。
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“A、助けて。”
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いつも弱音を吐かなかった翔ちゃんが
旅立つ前日の夜に助けを求めてる。
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聞けなかったこと。カズの言葉。
今行けば菜穂さんにカズの今の気持ちを伝えられるかもしれないという賭け。
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「ごめん、かーーーーー…」
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ピカッッッ。
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ゴロゴロゴロ…
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窓から差し込んだ雷の強い稲光。
窓際にいた私の腕をパシッと掴んだのは確実にカズで
そしてその稲光の瞬きが一瞬、カズの顔を半分暗闇の中、照らした。
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その顔があまりにも男で、息が止まる。
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和也「…行くなよ」
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ゆらゆら揺蕩うこの熱は
果たしてどこに向かうのか。
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和也「…行くなって」
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ザーーー…と降る雨の夜。
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「…」
和也「…」
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何かが起こる、春のはじまり。
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