97.叶えられなかった約束に ページ18
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菜穂「…知ってますよ」
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ほらね。
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「…へ？」
菜穂「知ってますよ。先輩がちゃんと私のこと好きだったことぐらい」
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どう転がるか、分からないでしょ？
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「…あの…？」
菜穂「ちゃんと分かってます。先輩が進路のことで私のためを思って別れたって」
「え…？」
菜穂「別れを告げられた時は純粋に傷つきました。…でも、その後先輩の友達が来て内緒ね、って言われて先輩の気持ち、聞かせてもらったんです」
「…じゃあなんで」
菜穂「約束を破ったからです」
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今までに聞いたこともない話に、翔ちゃんも私も先が全く読めなくなる。
いつの間にか唾液は出て来てくれるようになってた。
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「約束…？」
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そんな話、カズの話にはーーーー…。
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菜穂「私は振られてもまだ好きだった。忘れられなかったし、今もまだ忘れられてない」
「…」
菜穂「でもいくら私が好きでも、先輩が私のことを好きじゃなかったら意味がないじゃないですか」
翔「だからあいつは菜穂がまだ」
菜穂「ウソ」
「…嘘？」
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菜穂「先輩に貸してもらった小説の裏表紙に。メモが挟まってたんです」
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菜穂さんの茶色い瞳にぷっくり、涙が浮かぶ。
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菜穂「まだ俺を許してくれるなら、菜穂が春休みに入った三月の後半。会おうって」
「……そんな」
菜穂「ちゃんと先輩の字だったし、私は先輩にメールも打った。返信も来たし約束もした。でも」
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菜穂「先輩は時間になっても来なかった……」
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カズの横顔が脳裏に浮かぶ。
悲しげで、でもどこかかっこよくて。
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カズの話に、そんな約束。なかった。
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菜穂「だから私は振られたんだって思ったんです。きっと好きな人ができて来れなくなったんだって」
「…」
菜穂「傷つけられたのは私の方。だからもう忘れられないけど、好きじゃないんです」
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菜穂さんが小説を見て泣いていたのは
ごめんね、の文字じゃなくて裏表紙のメモの方。
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翔「…菜穂」
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なんでこうも
すれ違っているんだろう。
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