大嫌いなきみへ (ページ5)

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『テン何してんの……ごめんマーク……』
「お迎え来たんだよ〜、昔もよくこうしてたじゃん。今は嬉しくないの？」
『嬉しいとかじゃなくてどうして会社が分かったのってことなんだけど』
「テンだから！」
『ああ、そう』

私の手を握ったテンは満足気に笑みを浮かべている。マークは何も言わずその場から立ち去ってしまった。いやまあそうなるよね。私も訳分からないもん。お疲れ様のメッセージを送るとスタンプだけ返ってきた。明日きちんと謝ろう、テンが迷惑かけてごめんねって。

「もう本当に嫌い〜」
『何が？』
「こっちの話。早くこれ着替えたいんだけど、明日僕の服買いに行こ」

今日はどんな手の込んだものが食べたいと言われるのか身構えていたら、そうめんがいいと言われて呆気に取られた。いつもは疲れて早く帰りたいと思うのに、隣にテンがいるだけで、毎日乗っている電車も楽しい。

「Aが出掛ける時着いていこうとして怒られたよね。お母さんにAが」
『あれ本当に意味分からなかったんだけど、なんで私が怒られたの？』
「僕のことは怒れなかったんだよ〜、みんな僕のこと大好きだったから」
『分かっててやるあんたもあんただけどね』

太陽が沈み始めて辺りがオレンジ色に染まる。テンが急に私の前からいなくなったのもちょうど今の時期だ。あの日迎えに来てくれるテンが来なくて、今日はそういう気分じゃないのかな〜って帰宅したけれど、2日経っても1週間経っても1年経ってもテンが現れることは無かった。

「A、僕はここにいるよ」

私の額とテンのそれが重なる。昔は毎日こうやって挨拶をしていたから恥ずかしい気持ちは全くない。ただ、久しぶりの感覚に少し胸がむず痒くなったけど。風が吹くとテンからは少しだけマークの匂いがした。自分の服を着た全く知らない赤の他人から嫌いだと言われたマークはどんな気持ちだったんだろう。反論もせず私に何かを聞いてくる訳でもなく、ただその場を黙って立ち去ったマークにもう一度だけ心の中で謝っておいた。
どうしてテンはマークが嫌いなんだろう。優しいし頼れるし、ちょっと抜けてるところもあるけれどすごくいい人なのに。

「テンが帰ってきたこと誰かに話した？」
『ううん』
「話しちゃダメだよ」
『なんで？』
「びっくりしちゃうでしょ」

やましいことがあると目をそらすテンと、帰宅するまで目が合うことはなかった。