大嫌いなきみへ (ページ12)

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「やっぱり僕とあいつ会ったことあるって！」

珍しく私より遅く出社したマークは鞄を乱暴に置き挨拶よりも先にそう告げた。椅子を叩いて座れとを促すと、おはよう！と言いながら腰をおろす。その時に見えた頭のてっぺんの辺りについている寝癖が可愛くて笑うと、目をまん丸にして首を傾げるのでさらに面白い。その部分に手を導いてやると、水で濡らしてくる！と慌ててトイレに向かった。

私とマークが同じ中学だったということは、恐らく実家は近くだろうし、テンと会っていてもおかしくはないけれど、今のテンの昔のテンは変わりすぎているから気付くはずがない。じゃあなんで私はすぐに気付いたのかなんて野暮なことは聞かないで頂きたい。テンが«テンだから»私の居場所が分かったのと一緒で、私は«私だから»テンのことが分かった。それだけだ。
結局マークの話を聞く前に朝礼に入ってしまって、私は他部署と打ち合わせ、マークは会議やら商談やらでその話はうやむやなまま終わった。

『ただいま〜』
「こんなに服いらないって言ったじゃん」
『暑いのなんて今だけだって。すぐ涼しくなるだろうし』
「涼しくなる……」
『うん、涼しくなったら一瞬でテンの嫌いな寒い季節がやって来るよ』
「テンが寒いの嫌いなの知ってたの？」
『いや？寒いとぴったりくっ付いてきたから嫌いなんだなって。私はそうしてくれるから寒いと嬉しかったよ』
「冬は嫌いだけど2月は好きだったよ。僕の誕生日だったから」
『ああ〜ふふ、そっか。今年はケーキ食べようね』
「フルーツが乗ってないのならね」

この前まで残っていたマークの匂いはすっかり消えていて、私と同じシャンプーの香りが鼻に届く。あれだけ嫌がっていたお風呂も今はお気に入りになったらしく、どんどん増えていく泡が楽しいのか、髪の毛で遊んでは私を呼び顔だけ出してそれを見せつけてくるようになった。湯気がくるからやめてと言っても聞くはずがなく、むしろそれを言われたいようにも感じる。テンはAのお兄ちゃんだからと言うけれど、私からしたらやっぱりイタズラ好きの可愛い弟だ。

『寝よ、明日早いんだ』
「この前みたいに遅くなる？あいつとどっか行く？」
『ならないし行かない』
「ふーん、ならいいや。昔からあいつは本当に贅沢だよ」

僕とあいつ会ったことあるって！今日の朝マークが言ってきた言葉は本当なのかもしれない。テンはマークの中学時代を知っている。それは間違いないんだ。