5 ページ18
壁に掛かっている時計を見て、今からならまだ間に合うかもしれないと動きやすい格好に着替えて髪をくくる。最後の現場で化粧は落としてしまったからすっぴんなんだけど化粧している暇はないし……とスニーカーを履いたところで、私はどこに行こうとしているんだ、と玄関にかけてある鏡を見つめた。
『…………』
お風呂に入って明日のために早く寝るべきなのに私はコンビニへ向かおうとしている。しかも手ぶらで。面倒だけどスニーカーを脱いで、財布と今日配られたばかりの台本を持って『家だと集中できないから』と口にして玄関のドアを開けた。
「……あ、」
『…………』
「今日は何を買いに来たの？」
『…飲み物と、家だと集中できないから、たまには外でやろうと思って』
もう何度も用意された台詞を言っているから慣れているはずなのに、声は震えているし今までの中で1番下手だった。イジェノは昨日と違い身ひとつで来ている。これなら着替える必要なかったな、とキャップを深く被り直した。
「その台本、今撮ってるやつ？」
『うん』
「今日一緒にいた子って…」
『1話のゲストの子。love……なんちゃらってグループの』
「……ああ、あそこの子か」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたイジェノは「大丈夫だった？」と昼間みたいに私の髪に触れた。「俺、てっきり仲いいと思って話し掛けちゃったんだけど、その……」『ミウちゃんは大丈夫だと思う』「そっか」安心したように目尻を下げ「噂になったら困るもんね」イジェノは気まずそうに頬をかいた。『…………』「A？」『別に、私は』困らないよ。困るけど、困らない。イジェノとだったら別にいいよ。その言葉をぐっと飲み込み、イジェノが帰ってしまわないように台本を渡しコンビニに入った。アイスのコーナーを通ると冷気が届き冷静になってくる。私は何を言おうとしていたんだろう。適当にジュースを選び会計をしているときに、横目でイジェノを見たけれど、なんとも思っていない様子で台本をパラパラ捲っていた。
「おかえり」
『……ん』
「Aはどの役？」
『ヒョリン』
「……キスシーンあった子？」
『え、嘘、あった？ちゃんとまだ見てなくて』
「や〜、見てないやつ他人に渡しちゃだめじゃん」
イジェノは台本を私に返すと「徒歩だとあれだから、ちょっと離れて歩こう」と歩き出した。当然のようにそれに付いていく私は、自分の中で芽吹き始めた思いを認めているようなものだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1113人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Kiki(プロフ) - なつみさん» あんまり女優設定って見ないなと思って書いた作品なので、そう言って頂けて嬉しいです🥺ヒロインちゃんの変化にも注目して頂けたらと思います〜🥺 (3月16日 12時) (
レス) @page26 id: 8611e65663 (このIDを非表示/違反報告)
なつみ(プロフ) - 他では見かけない設定なので、毎回楽しく読んでます！クールなヒロインが…！？って展開になってきてわくわくしてます🥺 (3月14日 12時) (レス) @page23 id: 7227221f75 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：kiki
| 作成日時：2023年12月7日 18時
