君のためなら、 (ページ6)

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『何してんの、もうその気になった？』

なぜか今私は

日直という理由だけで

選択すらしていない大量の生物のノート抱え

生物準備室の前にいた。

「仕組みました？」

『まさか、そんなことしねえよ。』

そう言って促されるまま教室に入ると

そこは先生の匂いで満たされていて

準備室という名前には似合わないほど物がなくスッキリしていた。

『それ置いて、ここ来て。』

指さしたのは先生のデスクであるだろう場所の横にあるパイプ椅子だった。

「いや、帰りますよ。」

元々来る予定じゃなかった場所に長居する気なんてさらさらなかった私は

足早に帰ろうとするが

『いいから早く。座れ。』

なんだか虫の居所が悪い様子で

めんどくさいことになりそうだと考えた私は

素直に応じることにする。

それから数十分、

座ったはいいものの

当の先生は机に突っ伏したまま動く気配はなく

ただ時間だけがすぎていた。

「あの、私帰りますよ。」

応答がないことを確認し

起こさないようにそっと椅子から立ち上がる。

『ねえ、』

先生に背を向け帰ろうとしていたため

視界がガラリとかわって

一瞬何が起きたのか分からなかった。

ただ気づいたら甘い香りに包まれいて

冷静になるにつれて鮮明になって行く先生の腕の感触に

やっと状況を理解した。

『癒して。俺今めっちゃ疲れてんの。』

「 ...立場逆だと思うんですけど、」

『何、癒してほしいの？』

答える気にはなれなくて

かわりに袖をぎゅっと握りしめる。

『綺麗だな、髪。誰かのため？』

分かり切っているかのようなその質問。

「なんで、」

『俺人間観察趣味だから。』

「意味わかんない、」

『人間には人間の体温が一番効くんだよ。』

悔しいけれど

その言葉でリミッターが外れたように涙が止まらなくなった。

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