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だが、こんな状態の彼女を放っておけないのも事実。
僕はおそるおそるA先輩の肩を叩き、「先輩」と声をかけた。
その声に反応して、A先輩はすっと顔を上げた。よっぽど泣いたのだろう、目は充血していて水で滲んでおり、耳から頬まで真っ赤であった。

なんなんだよ、そんなに好きなのかよ、古賀先輩のことが。
だったらなんであの時、照れもせず僕に古賀先輩のことが好きだなんて言ったんだよ。

嫉妬の感情が混ざった、そんな言葉たちが喉を通ることは無く、代わりに喉を通って出てきたのはA先輩を心配する気持ちを含んだ言葉たちだった。
こういう時、僕の口は大層都合がいいよなと思う。

「……古賀先輩に、彼女できたんですか」
「……」
「僕は正直、A先輩と古賀先輩お似合いだなと思ってたんです。だからすごいびっくりしました、古賀先輩に彼女だなんて」

中野君、と先輩が呼ぶ。A先輩の声色には、僕に対する恋情などというものは一切孕んでいないように聞こえた。
その代わり、僕の目に見えたのは、涙で輝いては見えるが、その奥には光の宿っていない瞳。

「お似合いだったら、私と古賀は付き合えてるよ」

A先輩は薄笑いを浮かべながらそう言った。それは紛れもなく、自分自身に対する嘲笑であった。

ねえ、先輩。
貴方にそんな顔させるあの人よりも、僕の方が貴方を幸せにできるに決まってますよ。

だから、A先輩。

「あの人なんか忘れて、僕にすればいいんですよ」

そこまで声に出してしまって、ふと我に帰る。

……僕は何を言っているんだ。

「……中野君、」
「……すみません。今日部活の用事で呼ばれているので今日は放送行けないです」

見苦しい言い訳を吐いて、僕はその場から離れるしかなかった。

泣いている彼女を見殺しにしてしまったという申し訳なさと、自分が言ってしまったことへの後悔と羞恥に襲われて、その後の授業にも身が入らなかった。
そしてそんな感情を抱えていた僕は、その日が先輩の仕事納めの日であったことなど、頭からすっぽり抜け落ちていた。

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春湊(プロフ) - まぽさん» お久しぶりです!早速読んでくださりありがとうございます🙇‍♀️🙇‍♀️ (3月3日 15時) (レス) id: 1a4158699c (このIDを非表示/違反報告)
まぽ(プロフ) - お久しぶりです。夜分にコメント失礼します。出井さんの新作読めて嬉しいです☺️素敵なお話ありがとうございます! (3月3日 1時) (レス) @page6 id: 3194fe305d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:春湊 | 作成日時:2024年2月9日 0時

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