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先輩であるAさんの頭を、ぽん、と撫でる。
足元から熱が伝わっていく。今の俺、顔真っ赤なんだろうな。
「……出井、くん?」
「……大丈夫、大丈夫ですよ。そんな、ただのスタッフに言われただけで落ち込むことじゃないです。作家の方々があなたの実力を認めて、あなたは面白いと言って、劇場所属にしたんでしょう。だったら素直に受け止めるべきですよ。俺からしたら、十分すごいことなんですから」
思いのままに、口から溢れる言葉を捧ぐ。しかしこれらはすべて事実そのもの。
彼女はたったひとりで、自分のすべてを使ってネタをしたのだ。であれば、それは称賛されるべきだろう。俺がどんな感情を持ち合わせていたとて。
彼女を落ち着けるように、今度は彼女の傍に近寄って、また頭を撫でてあげた。
それと同時にどんどん勢いを増す涙。まさかの逆効果だったか。
「ごめん、こんなやつで、ごめんな、」
「そんなに謝らないでください、Aさん」
「……出井くん、優しいな、どこまでも。やっぱり、好きや、私」
その言葉にぴた、と動きが止まってしまう。
待て、今この人なんて言った?
俺が察したと同時に、Aさんもどうやら察したようだった。流れていた涙が引っ込んで、彼女の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「……待っ、て、私、今……」
「……あの、その"好き"は、恋愛的な意味なんですか?」
目を逸らしてため息をついたAさんに、俺は意を決して気持ちを告げる。
もしもこの恋が実るならば、俺はこの人を救うことができるかもしれない。
「それが恋愛的な意味だとしたら、俺だって、貴方のことが───」
そのことがあったのは、確か、俺の誕生日の次の日の話だったような気がする。
春風が吹き始め、桜がもうすぐ花開きそうな、そんな季節だったっけ。
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春湊(プロフ) - まぽさん» お久しぶりです!早速読んでくださりありがとうございます🙇♀️🙇♀️ (3月3日 15時) (レス) id: 1a4158699c (このIDを非表示/違反報告)
まぽ(プロフ) - お久しぶりです。夜分にコメント失礼します。出井さんの新作読めて嬉しいです☺️素敵なお話ありがとうございます! (3月3日 1時) (レス) @page6 id: 3194fe305d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:春湊 | 作成日時:2024年2月9日 0時