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それからというものの、Aさんとはオーディション会場でたびたび会うことが多くなって、オーディションに落ちてしまった時には、楢原さんも交えた3人、時にはハインリッヒ姉さんも交えた5人でオーディション終わりに飲みに行き、愚痴を吐き散らかすというパターンになることが多かった。
だが、俺には見えていた。
オーディションに落ちるたびにどんどんと表情が暗くなっていく彼女の表情が。
その表情を間近でずっと見ているのがただひたすらに辛くて、俺がこのひとの彼氏であれば、もっと彼女の心を救えることが出来たかもしれないのに、と思うなどした。
会ってから数年が経ったある日、俺はAさんからカフェに行かないかと誘われて、オーディション終わりに待ち合わせのカフェへと向かった。
2人でどこかへ行くのなんて初めてで、なんというか、すごく緊張している。
Aさんは最近劇場の方に顔をよく出していたために、最近は会うタイミングがあまり揃わなかった。
久しぶりに会えて嬉しい、という気持ちと、2人きりは流石に恥ずかしい、という気持ちが俺の中でせめぎあっていた。
「久しぶりだね、出井くん。お疲れ様」
「Aさんも、お疲れ様です」
Aさんに揃えて同じブラックコーヒーを2人で飲む。オーディション終わりに飲みに行くのとはまた違った感覚があった。
こうやってAさんと対面して共に時間を過ごすことは初めてで、どんな話をすればいいか全く分からず頭が真っ白になってしまう。楢原さんやハインリッヒ姉さんを交えた時にはあんなに言葉がたくさん出てくるのに、彼女ひとりだけを前にした時に限って何も言葉が出てこないのだ。これにはさすがに頭を抱えざるを得ない。
どのタイミングで声を上げればいいか分からないまま、気まずい沈黙だけが流れる。
下げていた頭を少し上げて、Aさんの方をちらと見た。するとAさんもこちらの方を見ていたらしく、視線がばちっと絡み合った。
その瞬間に、Aさんの息が漏れて、少し頬を赤らめて笑った。
ああ、この人、そんな表情も、できるんだ。
「ごめんね、急に2人でカフェ行こうなんて言い出して。びっくりしたよな」
「いや、まあ……正直、楢原さんもいると思ってたので……」
「ごめん、ごめん。一度な、出井くんと2人きりで話したかったんよ」
照れながら言うAさんの表情が、とても愛おしかった。
俺はどこまで行っても、結局この人のすべてが好きなのかもしれないと思った。
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春湊(プロフ) - まぽさん» お久しぶりです！早速読んでくださりありがとうございます🙇♀️🙇♀️ (3月3日 15時) (
レス) id: 1a4158699c (このIDを非表示/違反報告)
まぽ(プロフ) - お久しぶりです。夜分にコメント失礼します。出井さんの新作読めて嬉しいです☺️素敵なお話ありがとうございます！ (3月3日 1時) (レス) @page6 id: 3194fe305d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：春湊 | 作成日時：2024年2月9日 0時
