春風に捧ぐ ページ2
KDash / 大阪29期.
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俺は彼女と出会ったその時に、爽やかで、それでいて強い風が、自分の元にぶわっと吹いてきたような感じがした。
「楢原くん、新しいコンビ組んだんやね」
10数年前の秋だった。
楢原さんとコンビを組んだ際、オーディションの楽屋かどこかにて、楢原さんから紹介されたのがその女性であった。
AAさん。
彼女はピン芸人で、俺の一つ先輩であり、楢原さんと同期だった。楢原さんのことを『楢原くん』と君付けで呼んでいて、余程仲が良いのだろう、と思った。
その人は……なんというか不思議で、儚くて、でもどこか芯のあるような、独特な雰囲気を孕んでいた。
「紹介するわ。こいつ、俺の後輩の出井」
楢原さんの言葉に、俺はよろしくお願いします、と頭を下げた。Aさんは、めっちゃ似てるわ、楢原くんに、と微笑みながら言っていた。どこが?と一瞬思ったが、眼鏡か!と楢原さんが返していてああそこか、と思った。
いや、類似点そこだけだろ。
「へえ、ええやん。二人の漫才面白そうやわ。これからよろしくね、出井くん」
そう言って笑ったAさんに、俺はどことなく違和感を感じた。
なんだか、笑顔が本物ではないような、作られたもの、というか……。
だがそんな俺の考察は、彼女の次の行動で理性ごとはね飛ばされる事となる。
「───人生、変わるとええな」
肩に手を置かれ、耳元で言われたその言葉と、彼女の、少しの熱を帯びた瞳。
俺は何故かAさんのその表情に、強く惹かれてしまった。
一目惚れをしたのだ。同業者に。
俺は呪いでもかけられたかのようにその場から動けなくなって、彼女にはただ、はいと返事することしかできなかった。
一目惚れなんて、絶対しないと思ってたんだけど。
Aさんは、やっぱり不思議なひとだった。
「ああいうやつよ、Aって」
そう言う楢原さんにも、なんだか不思議な人ですね、としか返せなかった。たぶん、楢原さんの思っている『不思議』と俺の思っている『不思議』は違うと思うけれど。
「……あーいうの、魔性の魅力、って言うんですか?」
彼女の表情が頭から離れなかった俺は、いつの間にかそんな言葉を楢原さんに問うていた。
案の定、え?と聞く彼。
俺は咄嗟に、なんでもないです、と言い返すしかなかった。
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春湊(プロフ) - まぽさん» お久しぶりです!早速読んでくださりありがとうございます🙇♀️🙇♀️ (3月3日 15時) (レス) id: 1a4158699c (このIDを非表示/違反報告)
まぽ(プロフ) - お久しぶりです。夜分にコメント失礼します。出井さんの新作読めて嬉しいです☺️素敵なお話ありがとうございます! (3月3日 1時) (レス) @page6 id: 3194fe305d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:春湊 | 作成日時:2024年2月9日 0時