第七十二幕 二頁 ページ8
男より女の方が一緒に居て楽しい、と思う。
自慢話ばかりで自分は偉いと反り返る様な野蛮で粗暴な生きものより、笑顔が可愛くて優美で華やかな女の方が。
其に、リクオ以外の男は大して興味等無い。
総大将と鯉伴様は、其処等に転がっている男達とは違い、艶と華があって所作も美しくて好きだけれど。
「...おい」
そんな事知っているだろうに。抑々半分女なのだから差して問題無いだろうに、抜いた衣紋を掴んで引き剥がしてくるリクオは不機嫌を貼り付けた顔。
悪さを仕出かした仔猫の様に掴み上げられた儘溜息を零す私と、彼の斜めに傾いた機嫌を察知してか焦燥を浮かべた天邪鬼。
「私二つ位傷付いてるんだから、これで済んでるだけ感謝して」
「....は、二つ？」
ゆらゆらと揺れる身体に勢いを付ける為地を蹴り、掴まれている其処を支点に身体を回してリクオの背後に着地する。袷を整えながら彼等の横を通り過ぎて、何十回目かの欠伸を噛み殺した。
「ほら行くんでしょ、早くして」
「...は.....はい」
私に振り回されて巻き込まれた形の天邪鬼には申し訳無いが、消去法で彼が一番遊ばれて呉れそうだったのだから仕方無い。沼河童と経立は論外だから実質二択なのだけど。
「おいA！二つって何だよ！」
「知らなぁい、女心の勉強したら？」
道中の木々を跳びながら今日一番の速度で隣に並んでくるリクオから咋に視線を逸らす。
別に本気で怒っている訳では無いので言っても構わないのだが、既に起きた事を指摘しても取り消しは効かない。だとすると態々指摘して掘り返すだけ無駄。
「嗚呼、リクオの仕出かしと同じ事すれば判り易いかも」
次からは然うしよう、と決意していれば不機嫌を越えて不貞腐れた彼が視界に映る。
「好きな人がすれば哀しくなる事って色々あるでしょ」
リクオじゃなかったら気にならないんだけど。なんて付け足して、一際大きく枝葉を蹴って昨日振りの巨大な切株へ降り立つ。最早見慣れてきた妖怪達は既に自己研鑽中らしく、その手を止めて軽く挨拶を投げて来る。
「...次から気を付ける」
「良いよ、密通相手が居たとしても私は好きだから」
斬り殺されると思っていた相手だ。浮気程度で離れる程薄い心情は持ち合わせていない。未だ複雑そうな表情を乗せたリクオへひらひらと手を振って、妖怪達を見守る雪女の傍へと足を向ける。
今日は私も傍観者の気分。
誰かさんの所為、という訳では無いけれど。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2023年9月25日 14時
