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桃源郷、砂上の楼閣より_ymmt *request* ページ2

夏真っ盛り、学生の心のオアシスである夏休みは終盤を迎える手前。

ふとこの時期に、灯籠流しという行事が地方で行われていることを思い出した。

この間クイズに出てきたなぁ、規格外過ぎる圧倒的強さの象徴である伊沢さんが答えちゃったけど。

そんな年中行事への概念や理解が薄れつつある都心、東京。

人目から外れた荒川の河川敷。

視界の端に写る川原のそのまた隅に、江風にはためく純白を見つけた。

よく見ればそれはワンピースの裾、絹のような素材の光沢ある生地は照りつける日光を受けて眩しいばかりに乱反射している。

それを身に纏う女性は、その白に負けず劣らずの純情そうな人だった。



「……あら、はじめまして」



視線に気付いたのか、後ろにいる僕に首だけ向けて挨拶をしてくれる。

赤いラインが入った、てっぺんが平らなタイプの麦わら帽子。

そこから尻尾のように、茶色を含んだ一つ括りの長髪が覗いている。



「はじめまして、今日は暑いですね」


「そうですね、最近は特に」



いつもなら、挨拶をされても会釈だけで通りすぎるだけなのに。

僕から話を切り出したのは、彼女があまりにも幻想的だったからかもしれない。

ボタンが前に付いた、簡素な飾りもレースも何もないシンプルな半袖ワンピース、更には麦わら帽子と典型的、どこか古風で珍しい。

そんな風貌の彼女だから、今は亡き人がこの時期にだけ地上に戻ってきたかのような、ある種幻惑を見ているかのように感じたのだ。



「川、お好きなんですか?」


「ええ、とても」



何故?と聞くのは野暮だろう。

答えはこれで良い、この幻想的な彼女にはこれくらいの謎が残る答えの方が似合っている。



「川の流れって、一体どこが終わりなんでしょうね」



突拍子のない彼女の質問、それを聞いて何を得られるのか、何が目的なのか。

揺れる絹糸を束ねた後ろ姿は何も語らない。



「……河口までじゃないんですか?」


「きっと、川は広がるんですよ。海を伝わって、世界の何処かへ、気中へ、私達の元へ。川は繋がってるんです」



もう一度振り替えって、手招きする女性。

誘われるがままに隣へと着き、浅瀬に二人縮こまる。

今まで、ゆっくりと川を観察するなんて体験はなかった。

その流れを見て、せせらぎに耳を傾け、水面の光の屈折に目を細め。

ふと隣から風を感じれば、そこに女性の姿はなかった。



「明日も此所に居ますので」



月白の布を翻す女性を見送った、お盆初日。

_→←諸注意



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やまうみ。 - 山さん» ありがとうございます!許可とらなくても良いんですか...?やっちゃいますよ...?山様も、僕の作品で書きたいものがあればどうぞどうぞ(無いと思うけど) 注意書しておきます、ありがとうございます!これからも続く限りずっと応援と尊敬と敬愛を忘れません! (2019年10月22日 10時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - やまうみ。さん» 全然大丈夫ですよ、寧ろ許可なんて貰わなくてもどんどんインスパイアして貰えば…… 注意して欲しいこと……は、そうですね。万が一読者様に『パクりなんですか?』と聞かれたら事情説明がややこしそうな気も……その作品の中で注意書きは書いた方がいいですかね? (2019年10月22日 9時) (レス) id: c5ddeb2343 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - echoeighter8さん» 了解しました!他の作品も急ぎ足で書きますのでお楽しみに…… (2019年10月22日 9時) (レス) id: c5ddeb2343 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 「時間制限賃貸彼氏」という作品をお相手と所々を改変して書かせていただいてもよろしいでしょうか。いや、ダメだったら全然断っても良いんです!この間のは拒否権がない感じになってしまったので。良いかダメか、注意してほしいことなど教えてください! (2019年10月22日 8時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
echoeighter8(プロフ) - 山さん» 続編書いていただけるなら全然待ちます! (2019年10月21日 13時) (レス) id: a38f594748 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作者ホームページ:ないぞ!  
作成日時:2019年10月8日 22時

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