Apatite

穢れのよがり＿fkr ページ35

言えば、お互い都合が良かっただけなのだ。

命を摘み取りたい者と、命を絶ちたい者と、望むものが結果同じなだけ。

あたしと福良君とは、一種の契約関係にある。



「おはよ」


「おはよー」



くしゃりと笑う福良君、端から見れば善人顔。

しかして彼も、そしてあたしも、とんでもないエゴイスト精神を持ち合わせている。



「どう？もう良い？」


「いや、まだかなぁ……」


「……同意、実は私もそんなになんだ」



お前ら恋人繋ぎしときながら何呟いてんの、という声が飛んできそうなやり取り。

この正体は契約内容にある。

お互いに相手を愛することに成功したら、その時には彼はあたしの人生を終わらせてくれるから。

さっきの会話はその確認、生憎行き詰まってる。

愛する人にこの儚い命を終わらせて、そして看取って欲しい。

それがあたしの歪んだ願望。

それに対して、福良君は愛する者をその手で終わらせたい人なのだそう。

だが互いにそこまで大切に思いあっていない私達は、数ヵ月前から仮の伴侶という形を取っている。



「今日仕事？」


「うん、午前の講義終わったらオフィスに行く予定」


「へぇー」


「……それ、聞きたかっただけ？」


「それだけ」


「わぁ可愛くない」



無駄に体格の良い彼の背中目掛けて、肘で鉄槌をかます。

「いたぁっ」とか言ってるけど、この人薄笑いしてるもん、お前こそ可愛げない彼氏だよ。



「じゃ、またねー」


「はぁい」



所属する科目の違うあたし達は、ここでお別れ。

この調子では、いつになったら時が満ちるのか検討もつかない。

それほど感情が豊かではないダウナー系を目指すあたしだが、こればかりは大袈裟なため息だって出るってもんだ。



「あの、すみませんっ！もしかして高見さんだったりします？」


「……え、あぁ、あたしか。確かにあたしは高見Aですよ」



いきなりなんだ、と反射神経が働いてガンを飛ばしそうになったが、そこは踏み留まって。

肩出しチュニック、声は高く小柄で、まさに“女子”を語るに相応しい女性。

……まぁ、可愛いとはそういうのは個人の見解だから、敢えて言わないけど。



「あ、私は永島です！それで、今一緒に居たのって……」


「……あー、うん。彼は福良君ですよ」


「その……しゃしゃり出て申し訳ないんですが、福良さんとはどういった関係で……？」



永島さんの染まる頬、不安げに揺らぐ瞳。

それが何故なのか、何となく分かった、気がする。

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