Apatite

＿ ページ34

金属の感触と、夜の冷えた空気と、会場の異様な熱気とが私にまとわりつく。

私の生死を分ける伊沢君の言動に、ただ待つしかできないというのはもどかしいものだ。

何も出来ない無力さ、悲しいというよりも悔しいの方がしっくりくる。



「あっ、Aさんが今何を考えてるか当てようか？……はっ、そんな怖い顔しないでよ」


「五月蝿っ……」


「悔しいんでしょ。完璧だと思ってた計画がこんな男に打ち砕かれてるんだから。自分より下で無垢だと思ってた俺に、たった今殺されてもおかしくないから」


「……いつから気づいてた？」


「最初から？ワインの所でわざと引っ掻けたの知ってるし」



この男、最初から知ってたんだ。

表向きはまんまと罠に引っ掛かっているように誠実な男性を演じて、私の策もこの後の展開も全て彼が操ってた。

掌の上で踊らされていたのは私の方だった。

目の前の嘲るような笑顔が憎らしい。

プライドがズタズタに引き裂かれて悲鳴をあげていた。

目頭が熱くなって、視界が下の方から歪む。



「中々いい様だね。どう、初めて負けたみたいだけど感想は？」



最悪だ。

今に見てろ、必ずぶちのめしてやる。

そんな言葉を必死に噛み殺して、反抗の意志をなるべく伏せる。

せめて、こんなところで終わってたまるか。

ここからの巻き返しは見込めないけれど、まだ諦める時ではない。



「賢明だね、俺ほどじゃないけど利口だ」


「……どうも」


「その頭で今まで数々の旅人を騙してきたのか。現実的……うん、まぁAさんの能力を最大限活用するならそれが正しいね」



ベンチに私を仰向けに寝かせて、伊沢君は一人悶々と考えを広げている。

銃は手放さぬまま、彼のふと顔が明るくなったかと思えばとんでもないことを言ってのけた。



「じゃあAさん今から俺の下僕ね！」


「……は？」


「いやぁ、俺も一人旅不安なのは事実だし。これならWin-Win！……それに、寄生は望んでた結果なんでしょ？」



この男、狂ってる。

しかし彼の言うことも然り、それに反抗するなら今じゃない。

頷けば満足げな伊沢君、その顔をいつか苦悩で歪ませてやる。



*



こうじゃない(確実)

サイコパスは嘘をつくのに躊躇いがなく結果主義、かなりの自信家らしいので(違)

もっとおめでた頭の野郎を書ければ良かったんですが、いつかリベンジさせて頂きます。

こんな感じに設定グダグダですが、他のリクエストもお待ちしております。

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