あまさ控えめ_kwmr ページ2
昼下がりのアンティークな喫茶店にて、私は目の前の珈琲に小さな角砂糖を落とす。
湯気立った焦茶の液体に吸い込まれた二つの白は、ソーサーにかき混ぜられて溶けて消えていく。
市街の陽気さからは少し隔離されたこの店舗だが、店員も優しく気さくで雰囲気も落ち着いていて、私にとっての憩いの場となっている。
仕事が早く終わった帰りに、少し憂鬱になった明くる日に、暇をもて余した休日に。
家から徒歩十分足らずの場所にある、木陰の街角の喫茶店。
最近は、新しくリニューアルされたスイーツのメニューを目当てに通いつめている。
「いらっしゃいませ」
扉に取り付けられた黄金の鈴が揺らされ、ある客がこの店に入ってくる。
それに続いて、最近バイトとして入ってきた、女子大学らしき店員さんのソプラノの声がカウンターから聞こえる。
日光の差す窓辺の席、私の二個前の席にいつも通り優雅に腰掛ける客人。
この人こそが、最近私が喫茶店に足しげく通う本当の理由。
「ご注文は?」
「いつもので」
流した前髪に黒縁の眼鏡、どことなく秋を思わせる赤と黒のチェックシャツに、黒カーディガンと紺のジーンズ。
まるで美術館の彫刻のような美しさの彼に、私は柄にもなく一目惚れをしたのだ。
背中を向けた名も知らぬ彼は、常連客であるその風格を醸し出している。
私が初めてこの喫茶店を見つけたその日も、彼は今の席で珈琲を嗜んでいた。
ブラックかと思っていたのだが、ある日砂糖を二つ入れているのを確認できた。
甘党な私も彼を真似て、慣れない癖に珈琲を砂糖二つで飲むようになった。
「お待たせしました。ご注文のベイクドチーズケーキです」
「ありがとうございます」
店員さんが運んできたのは、今日のスイーツメニューであるチーズケーキ。
トッピングは粉雪のような砂糖のみとシンプルながら、柔らかな匂いが食欲をそそる。
フォークを差し込み口に運べば、その美味しさに私の顔には笑みが浮かぶ。
「これ美味しいですね……テイクアウトしたい位です」
「そう言って貰えて何よりです」
ふわっと笑ってカウンターに帰っていくバイト店員さん。
その後ろ姿を横目に、今度は砂糖入りの珈琲を流し込む。
チーズケーキの甘さに慣れた口には少々苦く感じるが、その苦味も彼の背中を見れば自然と薄れてしまう。
馬鹿みたいに単純で軽率なこの恋は、きっと人知れず終わっていくのだろう。
この珈琲はいつまで甘くいてくれるだろうか。
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杠-ゆずりは-@発狂同盟 - 山さん» あっ、迷走してらしてるんですね…私は、最後にきっぱり片付ける文(???)というものが好きでして…w特にfkrさんの誘拐(?)の話みたいな終わりかたが好きなんです〜あっ、ご丁寧にどうも…此方こそお世話になります(?) (2019年10月8日 21時) (レス) id: 550abac7bf (このIDを非表示/違反報告)
山(プロフ) - 杠-ゆずりは-@発狂同盟さん» 了解しました。とても素敵なシチュ……おみそれしました(謎) 個人的に完結方法に迷走する中、そう言って頂けると大変自信に繋がります。どうぞ続編でもご贔屓に(??) (2019年10月8日 21時) (レス) id: c5ddeb2343 (このIDを非表示/違反報告)
杠-ゆずりは-@発狂同盟 - 山さん» いや、まぁ…全部好きです((((尊いことに変わりはないのでおっけーです(((り、リクエスト…!私はkwkmさんが大好きなので、夢主ちゃんが振られたあとに慰めて付き合う…的な…?(語彙力なくてすみません)のがみたいです!検討していただけたら幸いです…! (2019年10月8日 21時) (レス) id: 550abac7bf (このIDを非表示/違反報告)
山(プロフ) - やまうみ。さん» 了解致しました。区切り上続編でのご提供となりますのでご了承下さい。 (2019年10月7日 21時) (レス) id: c5ddeb2343 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 先程はありがとうございました(土下座) 浅紅に嵌まれ大好きです。山様のガチ勢ですのでリクエストします(?) どこか儚く消え行きそうな夢主ちゃんをymmtさんが好きになるお話が見たいです。エンドは恋に落ちるところでも結ばれるところでも。シチュはお任せします。 (2019年10月7日 21時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
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