故にその愛は不実 ページ5
朱里は封筒を見て悲しげに笑った
「あれだけの事をしてきたんだもの。お金目当てだと思われても仕方ないよね···でもこれは要らない」
そう言ってモトキに封筒を突き返す
「安心して。すぐに出て行くから」
「持ってってくれ。これで縁が切れるならそうして欲しいから」
「本当に要らない···そんな考えをさせてしまってごめんなさい。Aさんに服は必ず返すって伝えておいて」
借りたままのAの服を着たまま朱里は玄関に向かう
扉の閉まる音が聞こえモトキはキッチンに座り込んだ
朱里が受け取らなかった封筒を眺め
本当にまた騙したりするつもりはなくて
必死で逃げて来ただけだったのか？
そんな考えがモトキの脳裏を過り
そんな訳ない
朱里の事だ···また騙すつもりだったと
モトキは立ち上がり玄関に向かうとスタッフハウスから戻って来たAと鉢合わせ
ここにモトキが居る
その意味をAは瞬時に理解した
「···朱里さんはどこ？」
「·····出てった。これでもう俺達には関わらない」
モトキはそっと封筒をポケットにしまい
「朱里はお金目当てだったよ。お金を渡したら出て行ったから」
そう嘘をついた
これ以上この生活を掻き乱されたくない
その一心でついた嘘だった
「そんな訳ない」
そう言い切るAに
「何でそう言い切れる？」
「優真くんの事を話した時も本当に心から悔いて泣いてた。それにお金目当てなら料理を作ったりせず部屋にある私の財布やお金になりそうなモノを盗んでとっくに居なくなってるはずだもの」
Aはキッチンに並べられた料理を見てそう答えた
「····朱里にお金を渡して追い出そうとしたけど断られた。要らないって··受け取らずに出て行ったよ」
「ならモトキも分かったでしょ？朱里さんは本当に後悔して···助けを求めて来たんだって」
Aの言葉にモトキは
「人は···そう簡単には変われない。朱里は２度も俺を騙したんだぞ？どうやったら信じられるっていうんだ？」
癒えない心の傷は一見塞がった様に見えて
少しの事で傷口が開き痛みが溢れ出すんだ
「簡単に変われない···それは私もそう思う。でも今は思ってたって言葉が正しいかな」
Aはモトキを見てそう話す
「モトキは···いつまでも過去に縛られたままでいいの？私は··やっぱり間違った選択をしてる？」
Aの問い掛けにモトキは答えが出て来ず黙り込んだ
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作者名：JADE | 作成日時：2023年2月21日 19時
