鼠の下に天女有り【文スト】

天女は儚く ページ2

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地下は汚い。


衛生的にも其処に蔓延る人間も、穢れを纏い卑しく育ち、地上とは全く違う。

此処には人情的な人間など居ない。
居るのは他人を利用する事だけを考える視野の狭い輩ばかり。

此の背筋の曲がった血色の悪い、貧相な男も同じ。


「A、歩幅が狭くなりましたよ」


他の輩よりは視野は広いが、自分の目的のための最短の距離しか見ないご都合主義。

貧弱な身体を見せつけながら、身体など関係の無いところで勝負を仕掛ける策略家である。
最も、身体を武器にしている所は自分が此の鼠と何等変わりない事は理解していた。


「フェーヂャ、私は歩くには不得手です」

「そうですね。運んであげましょうか」


フョードルがそう言えば、今まで誰もいなかった様に見えた暗い細道から騒がしい輩が飛び出してきた。

薄汚い土地には似合わない、派手で奇抜な金のかかった衣服。
地下に巣食う私等とは違って地上に住まう煌びやかな人間であることが伺える。


「Aちゃんは何時も小鹿のようですね！実に愛らしい！」

「ゴーゴリ、何回も言わせないで。ちゃん付けはやだ」


陽気な道化は軽々と私の身体を抱き上げた。

下手したら私の体重よりも重いドレスに包まれた、今にも折れそうなこの愚鈍な身。
腰と膝の裏に回された逞しい腕が支えた。


私の脚は筋繊維の衰えの所為で長時間歩くのには向いていない。

其も其のはず、少し前までは立つことすらせずに首輪に引かれるままに引き摺られていただけ。
お陰で筋肉は全く鍛えられず、筋繊維は酷く傷ついた。

歩くこと等、もうまともには出来まい。


「今や私はこうやってAちゃんを抱えることが主な仕事になってますからね！」


此奴等がいなくては私はまともに動けない。

私にとって昔の首輪と何等代わりない存在だった。

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