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「仕方ないですね。北さんがジュース奢ってくれたら許します」
「ええよ。何がいい？」
「いいんですか！？じゃあ、北さんが1番好きなやつで！」
奢ってくれと言ったのは自分だが、まさか本当に奢ってくれるとは思っていなかった。近くにあった自販機をじっくりと上から下まで眺め、北さんは「1番好きなやつか……」と唸る。こんな些細なことにも真剣に悩む様子が可愛くて、思わず笑みが溢れた。
「これにする」
熟慮の末に北さんが選んだのは、麦茶だった。なんとも北さんらしいチョイスだ。私が小さく笑うと、北さんは少し困ったような顔になる。
「Aの好きなやつじゃなくてええの？」
「はい！好きな人の好きなもの、たくさん知りたいんです」
自分の言葉が、胸にストンと落ちた。
−−ああ、そうか。私は北さんのことが好きなのか。
口に出してみて、ようやく『好き』の意味が変わっていることに気付いた。この気持ちは憧れではない。そう感じる瞬間はいくつもあったはずなのに、妙な先入観から見落としていた。
いつの間にか私の中で、北さんは『推し』から『好きな人』に変わっていたのだ。
「ほんまに俺のこと好きやなあ」
少し照れ臭そうに笑う北さんは、きっと私の気持ちの変化に気付いていない。しかし、それでよかった。今はまだこのままの関係でいたい。
「お茶、ありがとうございます。大事に飲みますね！」
「大事にしすぎて腐らすなよ」
「そんなことしなっ……い……とは言い切れませんね」
私が眉間にシワを寄せて渋い顔をすると、北さんは楽しそうに笑った。今日はたくさん笑顔を見せてくれて嬉しい。ずっとこのまま話し続けていたいな−−と思ったが、まだお昼ご飯を食べていないのに、昼休みがあと10分で終わることに気付いてしまった。
「すみません、私お昼まだなので教室戻りますね」
「わかった」
名残惜しいが一旦お別れだ。それによく考えたら、私と一緒にいることで、北さんまで噂の種にされてしまう可能性がある。それだけは避けたかった。
「A」
一歩目を踏み出したところで、北さんが私の名前を呼んだ。立ち止まって振り向くと、真剣な眼差しが私を射抜く。
「今日疲れた顔しとるけど、色々溜め込みすぎんようにな。しんどくなったら俺んとこ来。話聞くくらいはできるから」
「っ……ありがとう、ございます」
この恋の行方はわからないけど、北さんを好きになってよかった。私は心からそう思った。
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作者名：豆腐ハンバーグ | 作成日時：2020年4月11日 0時
