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私と先輩の間に割り込むようにして立っていたのは、北さんだった。驚きのあまり声も出ない。村田と呼ばれた先輩は北さんの言葉にはっと我に返り、逃げるように走り去った。友人たちも戸惑いながら後を追う。私はその後ろ姿をぼーっと見送ったあと、恐る恐る北さんを見上げた。
「北さん、どうして居るんですか……?」
「たまたま通りかかった」
その割には息も髪も少し乱れている。もしかして、トラブルになっている所を見つけて、走って来てくれたのではないだろうか−−いや、都合のいい妄想はやめておこう。私はおかしな考えを打ち消すように頭を左右に振った。
「……なんかあったん?」
北さんの優しい声に涙が出そうになる。朝はあんなに冷たかったのに、今はどうしてわざわざ助けてくれたのだろう。私はそう聞きたいのをぐっと我慢して、北さんの質問に答えた。
「実は、私と宮が付き合ってるっていう変な噂が流れちゃってて……誤解を解こうとしたんですけど、ダメでした」
「……あれ嘘やったん?」
「私が宮と付き合う訳ないじゃないですか!!」
まさか北さんまで噂を信じていたとは。私が全力で否定すると、心なしか、北さんの目に安堵の色が見えた。しかしそれは一瞬で消え、いつもの無表情に戻ってしまう。
「3年の間でも結構噂になっとるで」
「ですよね、今日めちゃくちゃ見られましたもん。どうにかして噂が広がるのを止めたいんですけど……」
「いっそ、俺と付き合っとることにすればええんちゃう?」
「……はい!?!?」
「冗談や」
北さんは笑いながらそう言ったが、私は顔から火が出そうなほど真っ赤になって照れてしまった。この人は真顔で冗談を言うからタチが悪い。しかし、今朝のように冷たくされるよりは100億倍よかった。すると、そんな私の気持ちを察したかのように、北さんが口を開く。
「……朝、ごめん」
「えっ?い、いや、全然気にしてないです!」
朝とだけ言われて何のことか分かってしまうなんて、気にしているのが丸わかりだ。完全に言葉選びを間違えてしまった。私は思わず頭を抱える。
「あのー……寝不足やったんよ。それでぼーっとしとった、ほんまにごめん」
「そうなんですね!もー、ちゃんと寝てください!嫌われたかと思ったじゃないですか!」
北さんにしては歯切れが悪いのが気になるが、とにかく原因が分かってよかった。胸につっかえていた塊が取れて、心がだいぶ楽になる。北さんはもう一度「ごめん」と謝った。
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作者名:豆腐ハンバーグ | 作成日時:2020年4月11日 0時