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朝練は全く集中できなかった。どんな内容だったかも覚えていない。ぼーっとしながら楽器を片付けていると、3年生の先輩に「ねえ」と声をかけられた。
「今日全然集中できてへんかったよな。1人でもそういう人おるの困るんやけど」
「すみません」
先輩は苛立ちを隠そうともせず、刺々しい声でそう言った。しかし、集中できていなかったのは事実で、私には謝る以外の選択肢がない。私が頭を下げると、先輩は小さく舌打ちした。部員たちはちらちらと私たちの様子を伺っているが、面倒なことには関わりたくないのか、楽器を片付けそそくさと音楽室から出て行く。
「こっちは本気で全国狙ってんの。浮かれてるのかなんなのか知らんけど、真面目にやってくれへん？」
浮かれるどころか気分はどん底なんですけど−−という言葉をぐっと飲み込む。今は耐えるしかない。それが1番早く解放される方法だと知っていたし、そもそも悪いのは自分なのだ。
「なんか言うたら？イケメンの彼氏できたからって調子乗ってるん！？」
「……え？何のことですか？」
全く予想していなかった言葉に思わず眉を顰める。先輩はその態度が気に食わなかったのか、顔を真っ赤にして激昂した。
「とぼけんなや！！もうみんな知っとるわ！！あんたが−−」
「ちょっと香澄、もうやめな。それは今関係ないやろ」
見かねた他の先輩が止めに入る。香澄先輩はまだ何か言いたそうにしていたが、授業開始10分前を知らせるチャイムが鳴ると、私を睨みつけた後早足でその場を去って行った。止めに入ってくれた先輩もその後を追う。
誰もいなくなった音楽室で、私は1人立ち尽くした。イケメンの彼氏とは何のことだろうか。全く意味がわらない。しかも香澄先輩は、私が練習に集中できていなかったことより、彼氏ができたこと(そんな事実はないが)に怒っていたように見える。
「もー、勘弁して……」
私は大きくため息を吐いた。なぜか北さんに避けられ、なぜか私の知らないところで良くない噂が出回っている。何だか今日は悪いことしか起きない。憂鬱だった気分が更に落ち込んで行った。
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作者名：豆腐ハンバーグ | 作成日時：2020年4月11日 0時
